人捜し
……季節から
“春”と“秋”がなくなった……
都市部の最高気温は4℃近くにまで上昇。真夏日は100日も超えるようになった。集中豪雨と巨大台風によって首都圏は壊滅状態、“JAP EAST CITY”は水没した。
今や環境難民による餓死者が溢れだしマラリアの再流行や、デング熱の発生などといった最悪の被害が日常化してしまった。
健康な十代から四十代の男女の人間を除き免疫力の少ない幼児や老人は衰微して、ただ死を待つだけたった。死者の増加はまるで毎日の日常にでるゴミのように無造作に落ちていたり捨てられてたりする。
次第にはゴミの山に人間の姿が目に付くようになるその人間が寝ているのか死んでいるのか誰も彼もが観て見ぬ振りをして通り過ぎるだけだ。
そんな目にも見えぬ得体の知れない恐怖と背中合わせの中、行き場を失い取り残されたように淡々と日々を過ごす人間たちは死ぬまでの間に喜怒哀楽を味わっていた。少なくともそこには平安というものがあったのだろう。
過去に美しく柔らかく疲れた夜の時間に癒やす輝きを放っていた大都市のシンボル、Tタワーはただの鉄鋼のクズと化している。遠い昔の写真には百万ドルの夜景を一望できる展望台として観光名所の一つでもあったがNEOTタワーの誕生によりTタワーに訪れる者も減っていった。だがそんなNEOTタワーに近付くことは自殺行為の様なものだった。青い海とは程遠い薄い茶色がかったまるでカフェラテのような大きな水溜まりが広がる海の中に聳えている哀れなNEOTタワーがおどろおどろしく浮かび上がっている。
そんなNEOTタワーを視野に入れつつも日の入りを見に廃虚となっているTタワーの展望室から更に上がったてっぺん近辺で足をぶらつかせながら柔らかな風が吹き抜ける場所で静かな町並みを何気なく眺めているハイジ。風が持ってきたその時々の音や匂いが味わえる早朝の僅かな時間が何よりもお気に入りの時間で今は波も穏やかである。
「おい、ノラッ!テメェ下りてこい!さぼってねぇで新入り探してきやがれってんだ!」
下の方から嗄れた声でコキタが叫んでる。ハイジにとってはママを呼ぶ子犬の鳴き声に聞こえた。渋々、展望室のところまで降りてゆくと岩石のようなゴツイ顔に白髪交じりの無精髭を生やした男が地べたにアグラをかいて座っていた。
「よく上がって来れたわね?高所恐怖じゃなかったっけ?」
ハイジは表情ひとつ変えることなく物腰の柔らかさを少し気取る感じで言った。
「バカヤロー!誰が高所恐怖だっ俺を甘くみんなっ!」
コキタはこの地区内で残ったただ一人の長老様といえよう。最近の情報(世界の情報を交換する渡り鳥“WIEM”の調査結果)によれば最高齢の平均年齢は55歳から58歳と発表されているがコキタの年齢は63歳の立派なクソ爺だ。
身なりも口も汚いが根は孫をみるような視線でこの辺りの若者を見守っていたりもする。
「今の俺に不可能は存在しねぇんだバカヤロー!記憶しとけ!」
「大丈夫。毎日、記憶してるから。」するとハイジは少し腰をかがめコキタの顔を覗き込みながら言った「ええーっと、只今のジジイの目玉は~チャプチャプ泳ぎまくっているっと」
するとハイジはペンを持つフリをして手のひらをメモ帳に見立て舌先で上唇をなぞりながら書いてみる。
「他に記憶するものは?」
そう言ってコキタの方に目を向けた。すると少しうつむき加減で手紙をハイジに渡した。
「手紙?どうやって届いたの?」
「知らねぇよ。今朝、便所の小窓に挟まってやがったんだ。……読んでみろよ」
ハイジは手紙を開いて短い文章を心の中で読み上げた。
《じいちゃん、お久しぶりです。生きてますか?今度、その町に僕が行きます。 ミルズ》
すぐにその内容を改めて確認するとコキタの方に顔を向け訪ねた。
「ジジイお前孫いたのかよ?!」
「あんにゃろ~俺に似てしぶてぇ奴だなー全くたいした野郎だぜ!」
話が少しズレた気はしたが改めて聞き返すことなくハイジは気にせず話を続けた。
「まぁ別にジジイの孫に興味はないし人捜しなら他あたって。今日はアタシが店番するから」
そう言って展望室を後にした。
“春”と“秋”がなくなった……
都市部の最高気温は4℃近くにまで上昇。真夏日は100日も超えるようになった。集中豪雨と巨大台風によって首都圏は壊滅状態、“JAP EAST CITY”は水没した。
今や環境難民による餓死者が溢れだしマラリアの再流行や、デング熱の発生などといった最悪の被害が日常化してしまった。
健康な十代から四十代の男女の人間を除き免疫力の少ない幼児や老人は衰微して、ただ死を待つだけたった。死者の増加はまるで毎日の日常にでるゴミのように無造作に落ちていたり捨てられてたりする。
次第にはゴミの山に人間の姿が目に付くようになるその人間が寝ているのか死んでいるのか誰も彼もが観て見ぬ振りをして通り過ぎるだけだ。
そんな目にも見えぬ得体の知れない恐怖と背中合わせの中、行き場を失い取り残されたように淡々と日々を過ごす人間たちは死ぬまでの間に喜怒哀楽を味わっていた。少なくともそこには平安というものがあったのだろう。
過去に美しく柔らかく疲れた夜の時間に癒やす輝きを放っていた大都市のシンボル、Tタワーはただの鉄鋼のクズと化している。遠い昔の写真には百万ドルの夜景を一望できる展望台として観光名所の一つでもあったがNEOTタワーの誕生によりTタワーに訪れる者も減っていった。だがそんなNEOTタワーに近付くことは自殺行為の様なものだった。青い海とは程遠い薄い茶色がかったまるでカフェラテのような大きな水溜まりが広がる海の中に聳えている哀れなNEOTタワーがおどろおどろしく浮かび上がっている。
そんなNEOTタワーを視野に入れつつも日の入りを見に廃虚となっているTタワーの展望室から更に上がったてっぺん近辺で足をぶらつかせながら柔らかな風が吹き抜ける場所で静かな町並みを何気なく眺めているハイジ。風が持ってきたその時々の音や匂いが味わえる早朝の僅かな時間が何よりもお気に入りの時間で今は波も穏やかである。
「おい、ノラッ!テメェ下りてこい!さぼってねぇで新入り探してきやがれってんだ!」
下の方から嗄れた声でコキタが叫んでる。ハイジにとってはママを呼ぶ子犬の鳴き声に聞こえた。渋々、展望室のところまで降りてゆくと岩石のようなゴツイ顔に白髪交じりの無精髭を生やした男が地べたにアグラをかいて座っていた。
「よく上がって来れたわね?高所恐怖じゃなかったっけ?」
ハイジは表情ひとつ変えることなく物腰の柔らかさを少し気取る感じで言った。
「バカヤロー!誰が高所恐怖だっ俺を甘くみんなっ!」
コキタはこの地区内で残ったただ一人の長老様といえよう。最近の情報(世界の情報を交換する渡り鳥“WIEM”の調査結果)によれば最高齢の平均年齢は55歳から58歳と発表されているがコキタの年齢は63歳の立派なクソ爺だ。
身なりも口も汚いが根は孫をみるような視線でこの辺りの若者を見守っていたりもする。
「今の俺に不可能は存在しねぇんだバカヤロー!記憶しとけ!」
「大丈夫。毎日、記憶してるから。」するとハイジは少し腰をかがめコキタの顔を覗き込みながら言った「ええーっと、只今のジジイの目玉は~チャプチャプ泳ぎまくっているっと」
するとハイジはペンを持つフリをして手のひらをメモ帳に見立て舌先で上唇をなぞりながら書いてみる。
「他に記憶するものは?」
そう言ってコキタの方に目を向けた。すると少しうつむき加減で手紙をハイジに渡した。
「手紙?どうやって届いたの?」
「知らねぇよ。今朝、便所の小窓に挟まってやがったんだ。……読んでみろよ」
ハイジは手紙を開いて短い文章を心の中で読み上げた。
《じいちゃん、お久しぶりです。生きてますか?今度、その町に僕が行きます。 ミルズ》
すぐにその内容を改めて確認するとコキタの方に顔を向け訪ねた。
「ジジイお前孫いたのかよ?!」
「あんにゃろ~俺に似てしぶてぇ奴だなー全くたいした野郎だぜ!」
話が少しズレた気はしたが改めて聞き返すことなくハイジは気にせず話を続けた。
「まぁ別にジジイの孫に興味はないし人捜しなら他あたって。今日はアタシが店番するから」
そう言って展望室を後にした。