【IT契約】営業秘密の考え方の基本・実務で注意すべき点 | 高木行政書士事務所

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こんにちは IT契約のサポートをしている行政書士の高木です

新型コロナウイルスの感染が急激な広がりを見せており、様々なところに影響が出ていますね...
経済分野でいえば、もはや「リーマン」レベルの問題ではないと思っています...
コロナそのものの収束を望むばかりですが、(残念ながら)経済的影響はちょっとやそっとの期間では収束しないでしょうね...


さて、ブログ更新をさぼりまくっていた1~3月ですが、
年度が改まることもあり、少しずつ復活していきたいと思います。


AIに関する契約や、データ取引については、「営業秘密」の観点・対応が必要になるという点については、このブログでも書いてきました。

一方で、「営業秘密」の難しさという点にも注意が必要です。

概要については、こちらをお読みください。
【IT契約】著作権はないものと考える・営業秘密は認められにくいと考える


今回は、営業秘密に関する具体的事例をみて、どのような対応が必要なのかを検討してみたいと思います。

事案はITの分野とは異なるのですが、契約のあり方や(営業秘密の)対象となる(対象とすべき)ものに対する考え方は、IT契約(だけでなく、他の分野)にも通用するものだと思います。

事案概要は次の通りです。
<知財高令元・8・7>

・ まつげエクステンションサロン業者(X)を退職した元従業員(Y)が、Xの顧客カルテの施術履歴を取得した
・ 入社時、XY間で「在職中に知り得た営業秘密を利用して、○○市内において競業行為を行わないこと...」旨の誓約書を交わしていた
・ 誓約書には「営業秘密とは、在籍中に従事した業務において知り得たXが秘密として管理している経営上重要な情報(経営に関する情報、営業に関する情報、技術に関する情報、・・・顧客に関する情報等で会社が指定した情報)であること・・・」が記載されている
・ Xは、上記の合意等をもとに、Yに対して○○市内における競業行為の差し止めを求めた

さてこの事案で、「Xの顧客カルテの施術履歴」は不正競争防止法上の「営業秘密」として認められたのでしょうか?

結論から言いますと、
「(Xの顧客カルテの)施術履歴の情報について秘密管理性を認めることはできず、施術履歴は入社時合意における「秘密情報」にはあたらない」とされました。

Xの主張は認められなかったわけです。


さて、次の2点について検討してみたいと思います。
1.施術履歴が入社時合意における「秘密情報」にはあたらないとされたのはなぜか
2.施術履歴について秘密管理性がみとめられなかったのはなぜか


1.施術履歴が入社時合意における「秘密情報」にはあたらないとされたのはなぜか
これについては、概要、次のように判断されています。(ちょっと長くなりますが...)
・ 誓約書には「秘密情報」と書かれているが、これについては「秘密として管理」された情報といえる
・ 誓約書における秘密情報に関連する規定は、その内容に照らし、不正競争防止法と同様に営業秘密の保護を目的するものと解される
・ 誓約書には「秘密として管理」について同法の「秘密として管理」と異なる解釈を取るべき根拠も見当たらない
・ 誓約書における「秘密として管理」は、不正競争防止法の「秘密として管理」と同義である

まず、この部分は「誓約書」(契約書)に対する解釈になりますが、
契約書(上記のような誓約書や、秘密保持契約書など)があれば大丈夫ということではない、ということが分かります。

次に、「施術履歴を秘密として指定していたと解することはできない」として、次の理由をあげています。

・ X店舗において、顧客カルテが入っているファイルの背表紙にマル秘マークが付され、室内に防犯カメラは設置されているが、顧客カルテは従業員は誰でも閲覧することができ、顧客カルテが入っているファイルの保管の際に施錠等の措置はとられておらず、また、施術履歴の用紙にマル秘マークが付されていたかは明らかでない
・ 顧客カルテは撮影されてLINEアプリで共有されており・・・、私用のスマホ端末にも画像が保存され・・・、顧客カルテの上記扱いは、顧客カルテが秘密として管理されていなかったことを示す

「営業秘密」の要件である秘密管理性から考えると、ちょっとありえない管理体制といます。


さて、重要なポイントとしては、
「施術履歴」は、入社時合意における(誓約書上の)「秘密情報」には当たらない、
とされてしまったことです。

これについては、次のことに注意すべきでしょう。

どの情報を「秘密」としておきたいかは、個々の事業者にとって異なります。

そうすると、契約書等において単に「在籍中に従事した業務において知り得たXが秘密として管理している経営上重要な情報」というだけでは、その特定が難しくなります。

何でもかんでも「秘密です」というのは認められにくいと思われます。

それぞれの事業者において、「秘密」とすべき情報を明確にしておく必要があります。

そのうえで、それをどのように管理するかを検討し、実行していく必要があります。


ただ難しいのは、その管理方法が妥当であったかどうかが判断されるのは後からのことなので、その点が営業秘密の難しさであるということは、以前書いた通りです。


少なくとも、専門家のアドバイスを受けながら、
・ 秘密とすべき情報の特定のしかた
・ 契約書の内容、文言
・ 実際の管理体制


について検討していく必要があります。




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