翌朝、里桜は気が重いまま出勤となった。


あ~ぁ…辞めちゃうのか…由香。せっかく友達になれたのに。今までのたくさんの想い出がよみがえる。一緒に働くの楽しかったのになぁ…


平坦な1日は終わり、たまたまマネージャーがまた出張のため、ストアマネージャーに昨日の報告をすることにした。


『お疲れさまです…』


『元気ないな。あの子は?辞めるって?』


頷いた。


『はい…決めたら曲げないのが由香だから変わらないと思います』


『やっぱりな。退職届、自分から出したんだからな。ま、解雇書にサインするよりは退職届として自分から辞める方が後々、仕事に就くときに傷がつかない。それはそれで良かったと思うしかないな』


ストアマネージャーはデスクの引き出しを開けた。先日の解雇書を手にした。


『これは破棄だな』


そう言うと…ビリッと目の前で破いた。


『あとは俺が、退職届の理由を上手く考えとくから心配するな。直井さんも暗い顔するなよ!』元気づけてくれた。


『なんか、いろいろありがとうございます』


里桜は少しだけ表情が明るくなった。店を出ると、今日はプロダクションにそのまま行った。入り口でプロダクションのbadgeを見せる。


『おはようございます!』


『はい。直井里桜さんね~どうぞ~』


階段を上がりレッスン室へ。


『おはよう!久しぶり~!』


『あ~!里桜お姉ちゃん!やっと逢えた』


中学生のあづみちゃんが抱きついてきた。


『おはよ~!あづみちゃん!』 

同じように抱きついた。


『いつもかわいいね~あづみちゃん』


『え~うれしぃ~ありがとぉ!!』


バタン!


『はい、皆さん、おはようございます』


『おはようございます!』


『今日は日本舞踊のお稽古です。着物を自分で着て1人ずつ前に出てね』


『はぁ~い』


『お返事に品がありませんね…はい、は短めに』『はい』 


みんな着物に着替え始めた。

里桜は、あっという間に着替えた。


『え~!お姉ちゃんはやくな~い?もぉ~帯が分かんないよ~え?こっちから?ん!こっちか!』


『あぁ~逆ぎゃく~!ほら貸して』


先生が居ないうちに着付けを手伝った。


『あづみちゃん、両手を胸の辺りにして。袖も一緒に持ってて』 


そう言うと固めにグッと巻き、捻りながら片方を肩に乗せ器用に帯を締め上げた。


『へぇ~す~ごっ!何でもできるね』


『何でもは出来ないよ~ただ…日舞は中学生から習ってたから』


『そっかぁ、今度、帯締め教えてね!』


『うん』先生が戻る。


『では始めましょう。先ずは彼女から』


あづみちゃんが1番になってしまった。


『はい、曲に合わせて~あら?あなたなんか歩き方が変ね』


緊張し過ぎて男歩きになっていた。


『あづみちゃん…足!あ~し』


小声で知らせる。

あづみちゃんはキョトン。 


『足が男足なんだってば~だから変』


『なに、なぁ~に??』


彼女も小声で。


『膝を離しちゃいけないの~両膝をつけて歩くと上手く歩けるよ〜』


『ぁ~ありがとぉ』


あづみちゃんは微笑んだ。そんなこんなでレッスンは終わった。着物を着替えた里桜は控え室に戻りスマホを見る。


里桜、レッスン終わったら六本木のbar行ける??光輝からの留守電だった。


直ぐにかけなおす。


『もしもし~今、終わったよ』


『お~、お疲れ~留守電聞いた?』


『うん。弘毅さんの店?』


『そう。ちょうど良かった。今、飯田橋に着いたとこ。いつものとこで待ってる。大事な話がある』


そう言って光輝は電話を切った。 


なんだろう?里桜は心当たりがなかった。