里桜は仕事が大好きだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。

『お疲れさま~』

バックステージに戻った。

ドアを開けた瞬間、異様な雰囲気。

キャストが横並び…

なのに、由香だけマネージャーの前で
何やら文句を言っているように見えた。

里桜も何事かと近寄る。

『私はこの中に1人だけ認めてない人が居ます!!敢えて言いませんが、前々から認めていません!!』


ザワザワし始めた。息を呑む。

ストアマネージャーは
デスクに向かい黙って聞いていた。

『だから、どーいうことですか!!って
言ってるんです』

『認めてない人が1人だけいるってことだと言いましたよね?聞いてました?あなた』

彼女は、また詰め寄る。

里桜は咄嗟に左手を引っ張る。振り返る彼女に目で合図をした。悲しげな表情を浮かべ唇をへの字にした。


『あなたたちは140人の中から選ばれた14人

。つまり勝ち抜いてきたキャストです!しかも私たちが時間をかけ、選び抜いたキャストです!だから誇りを持たなくてはいけない。また私たちは、外資系の日本支社勤務です。つまり私たちも、1人ひとり見られています。私も、見られています。私はまとめる役目なので、私なりのやり方、考え方でやっています!!それに従わないなら、それも別に構いません。先ほど申し上げたように、あなた方の代わりは沢山います。やりたい子も山ほどいます!!』


由香が怒鳴り声を上げた。


『は??どーゆーことですか?
さっきから黙ってれば、偉そうに自分が

何でもできるみたいな言い方で。私のことでしょ!!どーせ認めてない1人って』


しかめっ面に皆、凍りつく。


『由香ちゃん…』

里桜が呟いた。


『自分で考えてくださいね!みなさんも。
心当たりがあればわかるでしょ』

みんなに背を向け座っていた
ストアマネージャーが立ち上がる。

『はいっ!本日はここまで!!
タイムカード押して~!
そんなに給料払えないぞ~!!』

笑いながら冗談混じりに言った。


由香は真っ先にバックステージから
走って出て行った。

里桜は、彼女が押し忘れたタイムカードと

自分のカードを押して追いかけた。

ロッカーで着替える彼女を見つめ


『由香…なんかあった??』


『やり方がよくないなと思って…
アドバイスしたらキレた。
で、ケチつけたつもりもないけど…
休みや仕事態度とか色々、
日頃から溜まってたのかな?』

『言い合いになったんだ』

『マジでムカつく~!!あの女!!』

『しっ、聞こえるよ』

『今から妹と約束あるから、ま、

飲み歩いて憂さ晴らししよ!ごめんね、いつも心配かけちゃって…』


『大丈夫だよ~』微笑んだ。


その日は少し安心した里桜だったが

翌朝、大変なことが起きた…

『おはようござい…まぁ~す~…』

キャスト達がデスクを見つめていた。

里桜も輪の中へ。


一枚の紙切れが無造作に置かれていた…
そこには解雇書と英語で記されていた。

『え?由香…由香の!!』

名前を叫んだ。


『こんなみんなの見えるとこにわざと
置くなんて最悪だな、あの女』

人の悪口など言ったことがない児玉くんが
口を開いた。

『マジで性格悪いじゃん!!あの女
アタシも辞めよっかな??こんな店』

仲の良い穏やかなキャストたちが
人のことを悪くいう姿を初めて見た。

みんなのその姿が辛かった…


『由香はどこ?』

その時、ドアが開いた。


『おっは~!』由香が輪の中を覗き込む。

同時にマネージャーが来た。

静まり返る。


『おはようございます』

『も~挨拶もい~や!!めんどくさ〜

結局アタシじゃん!さっさと言いなよ』


『最後まで口の利き方がなってないわね
あなた。総合的に判断してあなたが私共の
経営方針にそぐわないだけのことです』

『辞めてやるわ!こんな上司がいる会社。

みんなごめんね!!みんなは違うから。
こいつだけのことだからさ』

バタン!!

ストアマネージャーが入って来た。

『おは…よ…う…』

『ストアマネージャー!!
いくらなんでも酷いですよ!これは』

児玉くんが言い寄った。

『なにがなんだか?また朝から揉めたのか
そろそろ勘弁してくれよ~』

ふとデスクを見る。表情が固まる。

『これは私に内緒でどういうことですか?

深沢さん、説明してくれないか』


みんなやっと状況を把握した。