エレベーター降りると1番離れた場所に、特別室と書かれた案内板を見つけた。
『あっちみたい…...』
歩いていくと大きな扉が突き当たりに見えた。
『あれか??』
『そうみたい。なんか特別室って凄いね』
大きな扉の前で深呼吸。
『どうした?親父に会うの緊張するか』
『うん少し…前に車内からチラッと見ただけだから。マンション前で…』
『そうだったな。ま、俺の分身みたいな感じに思ってくれよ!似てるらしい?周りから見たら俺ら』
トントン…
『はい、どなた?』
若い声に違和感を感じた。
『あ、俺です。ご無沙汰してます』
ギィー…
何やら黒いスーツを着た男が二人。
立っていた。
『お坊っちゃま!!ご無沙汰いたしております』
『敬語は使わないでください。世話になってるのは俺らの方ですから』
二重扉の内側で話は続く。
『やっぱり俺らは、坊っちゃんに跡目を継いでもらいたいんです!!』
『おい!今はそんな話、止めろよ!親父さんに聞こえるだろ!』
脇腹に肘打ちした。
『だってお前、あの豪傑ばばあとボンクラやろうのドラ息子が継いだら俺ら捨てパイだろ!いいのかよ!!』
『なかなか坊っちゃんに会える機会がないから…こいつが変なこと言って…』
苦笑いをした。
里桜には人が良さそうに見えた。なぜ彼らはヤクザの組事務所に入ったのだろう。とは言え、光輝の父は土建屋、トラック会社、不動産を手掛け詐欺はしない。何か事情を抱えながら彼らは生きているのだな…と不憫に思えた。
彼はうっすら笑みを浮かべた。
『いやいや気にしないでください。坊っちゃんは本来向こうだし…俺は愛人の子ですから…こんなによくしてもらい感謝しかありません。いつも俺の代わりにありがとうございます』
光輝は頭を下げ中へ。
『おう!!オヤジ!久しぶりだな』
明るく振る舞う彼に気付いた。
『よく来たな。光輝』
『初めまして。里桜と申します』
『よく来てくれたね、里桜さん。こんな所にありがとう。光輝がいつも世話になってるね』
温かな笑みとゆったりとした話し方が、光輝に似ていると感じていた。
『こちらこそ。光輝さんにもお母様にもよくして頂いております』
『さあさあ、立ってないでお掛けなさい。今、何か持って来てもらうから』
スマホで電話すると暫くしてお手伝いさんがケーキを持参しコーヒーを淹れてくれた。日差しが入る大きな窓の部屋には芳しいコーヒーの香りが広がった。