光輝はというと…
ガンガン!
『はい。ご用件は…』
『開けてくれ』
『誰に用じゃ』
ギィー…
『親分に会いに来た』
『笑わせんな、しゃば僧が…
ガキが何しにきたんや』
『濡れ衣を晴らしに来た。
親分に会わせてくれ。二人で』
ハハハ…ハハハ…
『ガキのくせに訳わかんね~ことほざくな
!野球でもやって帰らんかい、ボケ』
『仕方ね~な。
俺らにもプライドがあんだよ。
ま、こうなるのは分かってたから
しゃ~ないな。じゃ強引に
行かせてもらうわ』
ガツン!
光輝は木のバットをドアに挟み、
連れの哲に男を押さえてもらい中へ。
『待たんかい!!コラぁ~』
哲も突き飛ばし中へ。
物音と声で中から用心棒が出てきた。
『お前、役立たね~な〜ドケや!!』
うちわ揉めが始まった。
『親分と話させてくれ。
ダチが自殺に追い込まれた。
念書を返して欲しい。
アイツは金を使い込んでない!
名義が変えられたんだ!!信じてくれ』
部屋の中から声が聞こえた。僅かに…
『アイツのダチか??』
『まさか、こんなとこまで来るわけね~だろ?横浜だぞ?死んだやつは』
光輝には、ハッキリ聞こえた。
『お前ら帰れや!帰らんと痛い目に遭うぞ』
『覚悟は出来てる。でなきゃこんな組事務所に来ねーだろ?こっちもな、たとえ命と引き換えでも貰って帰る』
光輝達はバットを握りしめた。
『そんな木のバットで勝てるわけね~だろ
。お前らアホか??イカれとんのか?』
ブハハハハ…
中から10人くらい出て来た。
イッキに囲まれた…
殴りかかりバットを振り回したが、相手が10人じゃ太刀打ち出来ない…二人倒してもまた二人。そのうちに後ろから哲が頭を殴られた。
倒れ込む哲に、光輝が覆い被さる。
『コイツだけは逃がしてくれ!!
俺はダチを失いたくない!これ以上』
ア〜ハハハ…ハハハ…
『いきがるからこ~なんだぞ!シャバ僧。
教えてやるよ!アイツもバカだったな〜お前らと一緒だな。簡単に騙せた。アホちゃうか??あ〜アレか。お人好しってヤツか〜』
『このやろ~!!てめえかぁ!!』
光輝の大きな目がギロっとし睨み返す。
殴られ蹴られ袋叩きになりながらも…フラフラしながら立ち上がり再びバットを握りしめ、そいつに殴りかかった。
そいつが倒れた瞬間、ほかの奴がゴルフクラブを手にした。
『お前みたいな正義感ある命知らずは
ここで死ねばイイ。二人で木のバットで闘う??漫画の見過ぎかよ。ワリ〜な。現実はそうは甘くね〜からよ。バレたし丁度ええわ。お前のダイスキなダチと一緒に死ねや!!3人で天国!めでて〜な。だから綺麗ごとのアホな半グレは嫌いなんよ。ヤクザにもなれんペーペーのガキが中途半端なことしやがって。俺らは俺らで生活かかっとるし詐欺でもしなきゃ生きてけね~世界なんよ』
振り上げた瞬間、花瓶が割れた。
ガシャ~ン、パリン!バリバリ…
光輝は破片を拾い左手に。
右手のバットもきつく握り直した。
しかし、殴られたり蹴られたり、哲を助けるために袋叩きになったせいで力が思うように入らない…
ゴルフクラブが飛んできた。
避けたが肋骨に当たる。
『イテっ…』
息がつけない。
呼吸が荒い。
坊っちゃん、里桜、哲…
死んでも気持ちだけは変わらないからな。後悔はしないからな。俺は人生に後悔はしない。坊っちゃんのためにも…最愛の里桜のためにも。
心の中で呟いた。
後ろの男がチャカを手にした。
『さっさとクタバレヤ!!めんどくせ〜な〜!!』
背中に突きつけた。
『お~!!何しとんじゃ!われ!!
静かにせんかい!!チャカ外せや』
痩せ型の二枚目が悠々と歩いてきた。
『ガキじゃのう。何しに来たんや』
『ダチが自殺に追い込まれた。たから…お前のやさまで追い込みに来た』
ハァハァ…フゥー…
肩で息をする。
『お前、ただのガキじゃね~な??やさ、どこで覚えとった??そのことば』
『俺はカタギだ。真人間だ!一緒にすんな。おっさん!親分か…』
『根性あるけ、うちで働かんか??』
『ゴルフクラブ持ってるヤツが…アイツが…ダチを自殺に追いやった。さっき聞いた。ここで…。念書を返して欲しい。親御さんに金を返してやって欲しい。庭の木で首を吊り死んだんだ。母親が雨戸を開けたら目の前に息子が居たんだ。あんたにその無念分かるか!!あんたの組のコイツが追い込んだんだ!』
息を切らせながら話した。
肩で息するのがやっとだった。
『信じていいんか??お前、嘘ついとったら、たたじゃ済まへんで』
『頼む…アイツと両親の為に、金を返してくれ。お願いします。アイツが水商売で10代からコツコツ貯めた金なんだ。あと、コイツを外に…俺が残るから』
『お~!!お前、人騙しとったんか!!目見りゃわかるんよ。汚い真似しやがって。詐欺しろなんてなんも言っとらんわ。今から波紋だ。コイツ摘まみ出さんかい!』
ゴルフクラブの男は連れていかれ
光輝と哲が残された。
親分がしゃがみこむ。
『お前ら、若いのにいい根性しとんのう。取り敢えず病院行けや。肋も折れてるだろ?腕、伸ばしてみい』
腕が動かない。
『腕も折れとるな』
光輝は、そのまま意識が朦朧とし
気づくと病院のベッドに居た。
『面会がお見栄です』
ドアから親分が入って来た。
『お前が探しとんのはコレか?』
『坊っちゃん…。ダチの名前です』
『金も返してやるわ。汚い金は要らん。家紋に傷がつく。俺は不動産なんよ。あとは建築業。なかなか若いもん、更生させるんは難しいのう。あとな、お前の免許証で調べさせてもらった』
『身元ですか??』
『お前○○会の組長の息子だろ。なんでカタギと嘘ついた。組が違うからか?殺されると思ったんか?』
『いや俺は継ぎたくない。一生カタギ。ヤクザは嫌いだ。血筋のせいで何もかも上手くいかない。仕事もバレると直ぐ首だ。まさかホストまで首になるとは笑えるよな』
『俺ん所で働かんか?やくざじゃない。不動産屋でな。父親には俺から話してやる』
光輝は涙を浮かべていた。
『ありがとうございました。けど…結婚したい女居るからカタギで生きてゆきます』
『お前の親父は幸せじゃのう』
『ありがとうございました。哲も…死んだアイツも助けて頂き…』
『治ったら横浜帰れ。車と病院代は払うから心配するな。組の者が悪かったな。死人は帰らんから。また遊びに来いや』
笑みを浮かべ親分は出て行った。
光輝は何故か…
憎しみがすっと消えていた。
親分のことばには嘘がない
そう思えた。
父親以外の、やっと信頼できる人に出逢えた気がして、ほんの少し…幸せを感じた。