朝帰りし彼の実家に泊まったフタリは、
歌舞伎町に戻った。綺羅びやかなネオン。
ピンヒールのお水たち。

ポン引き、客…そしてホストも客引き。
ビラ配りがあちこちに。歌舞伎町ぽい。

『じゃ~な。ひろりん頑張れよ!!』
優しく頭をポンポンしニヤけた。

『うんっ!!』

両手で抱きつき彼を見上げた。

『かわい〜ひろりん。キュンだな』

フタリは店の前でお互いのお見送り。

それから1ヶ月間。毎日のように将大の実家かホテル暮らし。いつも一緒。

将大は美形で性格もよく、そこそこ売れ始め、フタリで歌舞伎町は歩けなくなっていた。

『ねえ!!この女、誰??麗士!!』

客が将大と寛美を見つけ追いかけてきた。

『あ~ぁ…おはよ…』

『初めまして。彼女さんですか?私、麗士さんの店に友達の彼氏が居て。たまたま、見かけたから話しかけてしまって。失礼しました。では、私はここで。仕事がありますので』

『同伴する??今から』

『え??あ、あ〜まあ、ま~イイけど…。なんだ〜麗士の客かと思った〜』

寛美は機転を利かせた。

クラブに着いてロッカールームに居ると…
電話が。カバンをゴソゴソ。

『ごめん。ありがとな。辛い思いさせて…
マジでごめん。けどあの子、太客だから外せないから、マジ助かった。ナンバーワンになったら、お前とお祝いするからな。待ってろよ!!じゃ戻るな。店内』

『いちいち電話しなくても大丈夫だよ〜心配症だなぁ〜お仕事頑張ってねっ!まあくん!!あいしてる〜!』

『ひろりんが居るから、飲みたくない酒飲んでも頑張れるよ!ありがとな!!』

それからまた1ヶ月。仕事明けは駅で待ち合わせにした。そっちの方がバレないからだ。

『お待たせ~!!待った?ひろりん』

『大丈夫〜』

『待ってたな~お前の大丈夫は大丈夫じゃないときだ』

『え??そうなの?私…』

スーツ姿の酒臭い麗士は、寛美の肩を抱き寄せ頭を撫でた。彼女はそれだけでも充分な幸せを感じていた。忙しくなっていく麗士に寂しさを感じながらも、逢えば全て忘れられた。それほどに彼からの愛をいつも感じ包みこまれている実感があった。

彼のメール。ふとした時のことば。
甘え方…すべてがあざといほど完璧だ。

ある日、初回10000円を他店のホストが配っているのを見て将大に話した。

『ねえ、アタシもお店に行ってみたいな~仕事してるとこ見たい!なんか他の店の子が道で初回10000円てやってたよ!!まあくんの店もあるの??』

『あ~あるよ。けど無駄な金使うなよ~』

『いいじゃん!!お願い!ねえイイ??』

『ん~仕方ないか~ただカッコいいやつ
いっぱいいるから、俺以外に惚れるなよ』

『はい』結局、行けることになった。

客の振りして同伴。

『いらっしゃいませ~!!』

麗士と腕くんで入店。

『この子、飲めないから酒はイイから俺が頼むから。俺が居ないときヘルプ頼むな』

『はい』店内はきらびやかな装飾に包まれる。店はどんどん活気を増した。

『パーリラ、パリラ、パーリラ、ハイハイ!!飲んじゃって〜入れちゃって〜』

ドンペリコールが鳴り響く。

麗士が隙を見て戻る。

『大丈夫? ?変なやつ居なかった?』

『うん。食べてるし平気』
はにかみながらフォークを置く。

『俺が話しにきたからって食べてていいんだぞ~』ニコッと頷く彼女。

麗士が頭を撫でたその時だった。

『なんなの~!!あの子~ろくに酒も頼まないくせに麗士に頭撫でられるしおかしくな〜い!!テーブルチェンジしてよ~!ね~!!あんたもホストならしっかりやれよっ!つまんないんだよ!この店!』

そう怒鳴りながら歩いて来た。寛美のテーブルの前に仁王立ち。酒乱の風俗嬢で有名だ。お水の寛美はめんどくさいな…と察した。

『あんたさ、金使ってるアタシが楽しくないのに、あんたは初回券で楽しんでんじゃね~よ!!』

ボーイが慌てて駆け寄る。店は静まり返る。指名のホストは自分の客のコントロール出来ずに固まっていた。

その時『なんとか言いなさいよ~!!』

手を上げた客の指がグラスにぶつかり、倒れて寛美のスーツに掛かった。

麗士が今にもぶちギレそうで立ち上がる。
寛美は腕を掴み、麗士を見つめ首を横に振った。

『お客様、酔いが回りましたか?さあさあ、こちらでご指名のホストと休んで下さい!!』

奥に連れていかれた。強引に。

そんなこんなで店が閉まり、麗士の派閥の
ナンバーワンと彼女さん、そして寛美も店内に居た。あとは営業後のホスト達。

麗士がぶちギレた。

『てめえ~自分の客ぐらい管理しろよ!』

相手の胸ぐらを掴み殴り掛かった。

『あ~!酒乱だから仕方ね~だろ?金使う女が切れたら上がれない世界なんだよ!』

『甘ったれたこと、ほざいてんじゃね~よ!!』

『はあ??てめ~いきがってんじゃね~よ!後輩のくせに』

『俺が直ぐにおいこしてやるよ!!』

『上等じゃね~か』

バン!!

麗士が殴られた。しかし顔を避け肩に当たった。

ナンバーワンが立ち上がる。

『見苦しいぞ!!お前ら!』

二人ともに殴られた。1発ずつ。

『これで終わりにしろ。それからお前!
麗士の顔にわざと殴り掛かっただろ!!
ホストは顔売ってなんぼの商売だからな!
顔に傷付けるなら麗士じゃなくて俺が
お前を首にしてやる』

『ごめんな。付き合ってんだって麗士と。あれ、俺の彼女。もうすぐ結婚するから。麗士をよろしくな』

『はい。すみません、ご迷惑おかけして』

『おい麗士!!お前に任せたからな!店は。アイツを超してナンバーワンにお前がなれ!なれるよな??』

『はい。ありがとうございます!!すみませんでした、今日は俺。自分のことなら我慢出来たけど、ひろりんの悪口言われたから…かっとなって…顔は殴らないことも分かりました。わざと顔を殴らずにいて下さり、ありがとうございました。勉強になりました。アイツ超してナンバーワンになります!!見ていて下さい!』

向こうのホストは一人でさっさと出て行った。

ぁ~まだまだだな。俺…

やっぱスゲーなナンバーワンは。カッコいいな。冷静に見てる。しかもたった一発ずつ平等に。俺ならぼこぼこにしてたな。ヤンキーの頃みたいに…

それからはあっと言う間に上位になった。

『今日は客と映画見るから、映画の終わりくらいにトゥモローで待ってて!!』

『はあ~い!!』

微笑む寛美。それを見た彼はいつも安心していられる。この女しかいないと。

『映画って楽なんだよな。相手しないで寝てりゃイイじゃん。ひろりんはその間、起きてて悪いな。眠くなったらまたないで実家で待ってろよ!』

『うん』ニコッとする。

とても幸せな時間。
何がって??
好きな人の帰りを待つ時間だよ。

喫茶店でコーヒー飲んで、窓から歌舞伎町の街を見下ろす。早く、まあちゃん来ないかなぁ~ワクワクが止まらない。

ドンドンドン!

『お待たせ~!やっと逢えたよ~ひろりん!!巻くの大変だったけどな、しつこくて』

不意にキスをする。

『上から眺めてたよ。お仕事お疲れさま』

『いつも支えてくれて、ありがとな〜』

微笑んで撫でなでしてくれた。