『武志く~ん!』


息を切らせながら里桜が車両に乗り込む。


『間に合いましたね~!

扉押さえときました!!』


乗り換えで隣の車両に居る武志を見つけ猛ダッシュし飛び乗った。


『いたっ!』

『え??ドアぶつかりました?』


『違う~鉄の棒にガンって…爪先が…』

『あ~柱?これっすね~鉄の棒って』


彼女の表現はたまに何か変。

変わってて面白いと言われる。

恐らく…語彙力がないだけだ。


『あ…先週、光輝さんに送ってもらいました?急に降りたから俺だけ1人で寂しかったですよ~。またアネキが心配してましたよ。あんたが送りなさいよ!!その人、変な人じゃない?って』


ハハハ…

『私の保護者じゃん!』


『光輝さんはそんな人じゃないよ~って言っときました』


『自宅まで送ってもらったよ。悪いことしたな~光輝くんは藤沢。遠いのにタクシー代も払ってくれたの。駐車場までの』


『なんかカッコいいな~俺も憧れるな。あんな大人になりたいな~渋くて変にカッコつけてなくて腰が低くて。あれ??惚れました?』


何故だかドキッとした。


『そんなことないよ~やだなぁ~!』

『あ、彼氏居ないんですよね?アネキから

聞きましたよ~』


『もぅ~何でも喋るな~。親友だから仕方ないか?うん。居ない』

『光輝さんはどうですか?彼女居ないみたいですよ~』


『なになに?急に。頼り甲斐のあるお兄さんって感じだよ~あ、思い出した』

『あ!次、飯田橋ですよ~ドア付近に行きますか!』


そう言いながら然り気無く里桜の手を引いていた。


え?触った?繋いだ??今…


友達の弟でもドキッとした。

まぁ好きにはならないけど。


大事な親友の弟。


降りてから早足でプロダクションへ。


『あ、そう思い出した!光輝くんて広告代理店の前は六本木のナンバー1ホストって

知ってた?確か…誰かに話したような感じだったから。武志くんかな?って』

『あ~知ってますよ。入りたての時に自己紹介で聞いたから。休み時間に』


『そうなんだねぇ~なんかさ、ホストは

ナンバー1でも首になるらしい。厳しいね』

『それは聞いてないな』


『え?そうなんだ…昨日、聞いたの。

確か…家柄が原因とか?…』


神楽坂方面に歩きプロダクションに着いた。身分証のバッチを見せる。


階段を上がり中に入ると皆、体育座りで待っていた。


『遅刻ギリギリだよ~!!』


二人は焦りながら台本を手にした。


『おはようございます!』


俳優の先生が中へ。テレビにも出ているベテラン俳優。里桜は先生が大好き。


言葉が的確で注意にも愛情があり優しいからだ。しかもオーラが凄い!テレビで脇役の時はオーラ消してるのか?と思うくらい。


『はい!じゃみなさん、早口ことばと

外郎売を1人ずつ前に出てやってみて』


里桜は前に出るのがキライ

しかも1人が1番キライ


元々、読者モデルでバイクやカー雑誌、トラック雑誌。また結婚式雑誌のカットモデル、ウエディングドレスモデル、着物モデルなどモデル専門しかやったことがない。しかし入ったら事務所的には、大手だからオールマイティーに出来ないと困るみたいに言われたのだ。


ドキドキが止まらない…


『はい!キミ~どうぞ!!』


手に普段汗なんかかかないのに手汗が…


『拙者、親方と申すは…』


ダメだぁ…声が元から小さいのに…

全然出ない…


『はい!!ストップ!』


やっぱりねっ…


『表情が固いな~表情に出すと声も

自然と出るからやってみて!!』


やっぱり、この先生好き!

出来そうな気がする。


覚悟を決めると何故だか強い。


いつも火事場の馬鹿力で人生なんとか過ごしてきた。就職も。


『拙者!親方と申すは!!』


ラストまでやりきった。身ぶり手振りで。


『お疲れさま~かなり緊張してたな』


1番に光輝が話しかける。


『あ~1人は苦手。まだ2人の芝居のが楽』

『慣れだよ~慣れ!気にすんなよ!』


優しい励ましに好きになりそうな予感がした。もう皆、出会って1年。


『お姉ちゃん、またお茶行こうよ~皆で』

『そうだね~歩ちゃんはまだ中学かぁ。

じゃちょっとだけだよ。お母さん、心配するからね』『はぁ~い!』


妹の居ない里桜には可愛くて仕方なかった。みんなでファーストフード集合。


規則では寄り道禁止、クラスでも私語は

禁止…仲間を作ることが禁じられているからだ。


先のメンバーが席を取っといてくれた。


『里桜ちゃん俺の隣、空いてるよ~!

歩ちゃんは、八ツ木くんの隣な~』


また光輝の隣。腰掛けた瞬間、気づいた。


ん??私、意識してる?

なんかまた緊張してきた…


『どうした??』

『え?いや、あの…別に…』


『仕事帰りだから疲れるよな~』


ホントは違うかも…なんとなく気づいていた。顔を見て話す度、真っ直ぐに目を見て話す光輝に惹かれ始めていた。


『ねぇお姉ちゃん、クリスマスはなにしてるの?』

『え??わたし?ん~特には』


『な~んだ。彼氏とデートじゃないんだ。

参考にしたかったのに〜』


ゴホッゴホッ!

ポンポン背中を光輝が叩く。


『大丈夫かよ~なんかおかしいよ??

里桜ちゃん今日』

『だって彼氏とデートって言うから

びっくりしたよ~こんなかわいい顔から

そんなことばが』


『え??中学だろ?当たり前だよな』

『え??そうなんだ…私が違うんだ…』


『里桜ちゃん、じゃ俺とディズニーランド来てくれませんか??』


唐突に八ツ木くんが口を開く。


『え??マジかよ~ズルいぞ!抜け駆け』

『なんだよ~だから皆の前でいってんだろ!』


『ま、まあな。あの、俺もいいですか?』

『え??まあ、予定も彼氏も居ないから

大丈夫だけど…』


『お前らいいな~!俺は仕事だよ〜』


光輝が一言。


『あ、じゃ俺もよろしくお願いします!』


なんかよく分からないけど??男3人、女1人のディズニーランドが決まった。


そっか。光輝くんは仕事なんだぁ。


私1人女性…周りから変な目で見られないかな??クリスマスにディズニーランドで。


『楽しんできなよ~里桜ちゃん。ホントは

俺も行きたかったな~!チキショー!!

仕事がなければ…』

『うん、楽しんで来るねっ。歩ちゃんは彼氏とデート報告してね~』


そして今夜もファーストフード解散に。

帰りに電車の中で


『俺、今夜も里桜ちゃん送るからさ。

悪いけど次の駅からまた1人で帰ってな。武志!』

『え。マジすか??』


あっという間に駅に着き、光輝は里桜の肩を抱きながら電車を降り彼に手を振った。


里桜は手を振らなかった。


というよりは寧ろ、肩を抱き寄せられて

ビックリして固まっていた。


『あ、悪いな~里桜ちゃん。触っちゃって

ビビったよね??人とぶつかりそうで揉みくちゃになりそうだからつい…』

『あ、いえ…だいじょぶですっ!!あの、ほんとにだいじょぶ!』


ハハハ…

『なんか大丈夫じゃない感じ。強引に降りてごめんな。まだバスあるけど送るよ!やっぱ危ないよ~女の子があの暗闇歩くの。先週、思った、俺。今日はほらアレ』


直ぐ傍に赤いスポーツカーがあった。またドアを開け、温かいドリンクも買って来てくれた。


スマートな大人。


『あのさ、クリスマス3人と約束してたけど

大晦日は空いてる??』

『あ~家族でテレビ見るくらいしか。用は特にないです…』


『じゃ決まり!!俺とデートしてくれる??』

『え??あの…デート?フタリきり??』


『当たり前だよ~普通フタリだよな?』


彼は信号待ちで見つめ微笑んだ。


『あ、だよね~フタリかぁ〜アハハ』

『ドライブ。伊豆に付き合ってよ。恋人岬』

『ん??恋人岬?行ったことないなぁ』


『え!!マジかよ~じゃ俺が初か。あとから、やっぱムリはやめてな~。わりとホスト上がりでも凹むから、そ~ゆ〜の。ムリなら今、断って』

『え??いえ、あの…行きたいかも…

行ったことないし恋人岬』


『じゃ俺、曲をミックスしてくるから!

ドライブ用の』

『ミックス??』


『あ、これも言ってなかったな。実は広告代理店とFMのDJなんだ。じゃ明日の夜の放送聴いてみて。放送局!』


『うん。ありがとう!』