季節は巡り街にはポインセチアが並ぶようになっていた。歌舞伎町ではホストがVERSACEやルナマティーノにミンクの毛皮を羽織り姫と歩く姿が目立つ。

ピンクちゃんにはバーテンの彼氏ができていた。そうか、逆になると確かに寂しい。親友は安らぎを与えてくれてたな。昔は私が彼と居たから、あの時、きっとこんな寂しさを抱えてたのか…

今宵はクリスマスイブ。

店を休み、ピンクちゃんのために服をプレゼントしようと内緒でアルタへ来たのだ。コレが似合うかな?とあれこれ悩むと気分が紛れる。今晩は彼んちに泊まるからと聞いていたから、戻った日に驚かせようとサプライズのボディコン選び。

たまにはパリジェンヌでのんびりお茶でもして店員のお兄さんと世間話して帰ろうかな?とアルタから壱番街に辿り着いた時だ。

『おい!!美里??美里だろ〜!!』

後ろから呼び止められた。
振り返ると彼が居た。

以前、美里に電話番号を渡した直井だ。

『あ、久しぶりだね!!』
『ん??あ〜!!もしや男と別れた??』

『だとしたら何?』
『え??マジで?今のはジョークだったんだけどな〜何かいつもよりテンション低いな。どーしたんだよ~ちゃま!!』

『ほっといてくれる~別れたの!!』
『マジかよ~!!あ、その大袋は何??』

『あ~コレ?ピンクちゃんのプレゼント』『何だよ~まだあの派手な女と一緒なのかよ~』

『悪い子じゃないよ。外見と中身は違うの!それにアタシ今、居候。ピンクちゃんの寮に』

直井は話ながら近づいて来た。

『じゃつまり早い話が今は美里はフリーなんだ!!チャンスだな俺。どーせ夜は1人だろ??』ハハハハハ…

『もぅ〜!!笑うな~!バイバイ!!』

スタスタ歩く。
直井が追いかけてきた。

美里の手を強引に掴み自分の店の中へ。

『ま、まぁ落ち着けって。飯は?』
『まだだよ。だからパリジェンヌでケーキとかスパゲッティでも食べようかと思って歩いてたの〜』

『じゃ話は早い。暖簾を開け、厨房のウェイターに声をかける。

『スパゲッティ1つ。あ、俺も出るから俺のもよろしく』直井が隣に座る。

『ねえ、今日は直井ギャル居ないんだ??クリスマスなのに?』
『あ~アイツら今、向こう。俺、言ってなかった?実は色々、仕事やってんだよね。歌舞伎町で。今晩はクリスマスイベント』

『え??そうなの?何してんの?』
『コマの隣のクラブDJ』

だから声がいいのか~と思った。

『はーい!スパゲッティお待たせ~』
『おはよう!お邪魔してます』

『おはようございます!!美里さん』

直井の後輩君だ。
フタリでスパゲッティを食べる。

『でな、さっきの続きだけど、アイツらは先に行って俺待ちしてんの。だからココには今日はいない』

暖簾越しに声が聞こえる。

『直井さんが居ないと女が全然出勤しないっすよ!見ての通り。モテますからね~』直井は嬉しそう。

『ちゃま!聞いたか~!つーことで
美里は今から俺の女だ』『え??…』

『お前ら聞こえたか~!!
美里は俺の女だから手を出すなよ!』
『怖くて出せませんよ~』アハハハ…

またまた強引な奴と思ってたけど周りにいないタイプだから何となく興味を持った。

『早く食べて出るぞ!!あ、今メモ書くから』

直井はメモに自宅の住所と地図を書いて美里に手渡した。

『悪いけどイベントは穴あけれないからさ。美里は俺んちで待ってろよ。暇なんだからいいだろ??携帯も書いとくから何かあったら直ぐに電話しろよ!』

トントン拍子に話は進み…彼が急に立ち上がる。右手を座ってる美里に差し出した。

『前にも俺、番号渡したよな。かけてくれなかったけど。今は男いないなら、もう一度、渡すからな。俺の女になれ。俺が守ってやるよ!マジだからな。ホラよ!』

美里に鍵を手渡した。

『ん??店の鍵?…』
『な訳ないだろ!天然か??相変わらずだな~チャマは。そっかそっか天然だったな。俺んちの鍵だよ。なくしたら二人して路頭に迷うから、なくすなよ!』

差し出した手から鍵と地図を受け取り、反対の手を繋がれたまま靖国通りに連れていかれた。彼が手を挙げタクシーを拾う。

『運転手さん、この地図までお願い!美里、着いたら心配だから必ず電話しろよ!』バタン!出発した。

周りの景色から小滝橋通りだと分かった。彼女は東京も詳しかった。母が先生をしていたのは目白だった。また叔母も大塚、大伯父も巣鴨に居るからだ。

『ありがとうございました!』

地図を見ながら歩く。
道が細いから入れないそうだ。

階段を上ると綺麗なマンションに着いた。此処か。ふと、まーちゃんを思い出す。

皮肉にも合鍵を返したのに、今は昔からの知り合いの男のマンションの鍵を渡されたのだ。

そんな事を考えながら中へ。電気は?
手探りで入る。カチッ。明かりが点いた。

綺麗なワンルームだな。

それにしても本人居ないのに落ち着かない。あ、電話してと言ってたな。真面目な彼女は言われた通りに電話をかける。

『着いたよ。タクシー代までありがとう。お釣テーブルに置いとくね』
『い~よ小銭はやるよ。ただ俺が戻るまではコンビニも行くなよ!!暗くて危ないからな!』『うん』

『冷蔵庫開けて何か飲んでろよ。じゃ後でな〜』

強引ではあるけど嫌味じゃない。
何だろう??この感覚。不思議?

冷蔵庫にはビールとか酒類があるが美里は飲めないからウーロン茶をもらった。