赤いマフラー。
まいっか、無いよりは。
笑われそうだけど…
朝はめっきり寒くなった。
まーちゃんに、自分のマフラーを渡した。
『はい!お弁当。いってらっしゃい』
『おう!ありがとな。じゃ』
彼は初の家具屋のバイトへ。
美里は正直、心配でならない。
ケンカしないかな?悪気はないけど、目付き悪いからなぁ~敬語できたっけ??
子供を持っ母親のようだ。
今日から彼女は大学がない、
というよりは寧ろ、辞めたからだ。
何も言わずに。先生はいつ気づくかな?
友達は先生に聞かれてるかな?
美里は先ずは掃除をすることにした。
ブーンブーン、ヒュイーン、ヒュルルル…ん?ヒュルルルって何だ??
もしや壊れてる??ん~まっいっか。
彼女は悩むと大概、まいっか?で済ませてしまう。掃除が終わると近所を散策することにした。考えたら、いつもトラック置き場、助兄ちゃんち、ラーメン屋、コンビニしか知らない。街を全然、知らない。
土地勘が無い美里は、散策することにした。ただ、問題は方向音痴。自分でも自覚しているので、今日は駅までの往復とラーメン屋までの往復にしようと決めた。
全て直線の距離。
駅に向かう道に、花が手向けられていた。
そう…ここが…事故現場。
まだ一週間も経っていないのに、
1ヶ月経ったかのように感じる。
私も花を買わなきゃ。何処に行けば?
また歩みを進める。看板がある。
縁日があるんだ。今度。いつまでもくよくよしていても亡くなった人は戻らない。
自分はなにが出来るんだろう?
変な宗教とかしてないけど、
でも生き残れたのには意味がある。
はっきり言ってあの時、もしも
トラックのガラスが割れていたら…
私は電信柱とトラックと車の間に挟まり
即死だろう。でも生きていた。
生かされていた。
だから、辛くても悲しくても
弱音を吐かずに生きてゆくしかない。
亡くなった人の分も。
彼は…助手席に同乗していた。
だから…私達と同じ被害者。
加害者は…運転手のみ。
代わりになれないけど…
その人にも大事な親戚や家族が居る。
歳が離れた弟が居ると聞いた。
考えると苦しい。
その被害者の兄弟を思うと…
当てもなく歩いた。
駅前は栄えている。
歩けない距離ではない。
何とか生活出来そうだな。
帰りにスーパーに寄ると、お仏壇の花が売っていた。綱島は若い人とお年寄りも居る街。温泉が沸いているらしく有名だ。
大通りには看板がある。
美里は夜の食材と共に、花を買った。
一旦、自宅に戻り荷物を置いて、また直ぐに出た。現場に来た。花を手向ける。
拝んでいると
『お姉さん!生きてたのね!!良かったわね』振り返っても誰だか分からない。
『あの~』
『あら、ごめんなさいね。あの日、窓から見てたのよ~近所だから。救急車には男性だけだから、まさか亡くなったのかなと…
大事故でしたでしょ〜』
『そうなんですね…
早朝からご迷惑おかけしました』
『あそこね~これで3度目。
お年寄りは祟りとか言うけど、あの道、
点滅だし直線でしょ~だから、スピード出す車が多くて。大通りに繋がる抜け道なのよ。ほんとに気の毒だったわね~
信号守ってたのに…。現場検証を庭から見てたのよ。見てたと言うか洗濯干してたら
見えちゃってね〜 』
『あの…私、実はこっちに住む事になりましたので、ご近所さんのようで今後ともよろしくお願いします』
『あら、そうなの?うちはあそこ』
指差して教えてくれた。
孤独から少しだけ解放された気がした。
『あの、ちょっとお伺いしたいのですが、ここら辺にお風呂屋さんはありますか?』『あ〜あるわよ~!一番近いのは向こう。看板が出てくるから分かるわよ~』
『はい。ありがとうございます』
『なんか若いのに苦労して大変ね~いくつ?』『19です』
『あら、大学生??
何かしっかりしてると思ってたわ』
昨日で辞めたんです…
と言うか、辞めるつもりで越して来ました…とも言いずらかった。
良い感じのおばさんで、ほっとした。
早速、言われた通りお風呂屋を目指す。
わりと近場にあった。
そっか、風呂桶とかボディーソープとかタオルとか?色々買わなきゃ!
そのまま、100キンに。
これで何とか暮らせる必要最低限は準備した。
自宅に戻り、手帳を開いた。
赤で丸をした。
命日を忘れないように。
たとえ顔を知らない誰かでも。
一生、忘れないように。
忘れてはいけない。絶対に。
同じ被害者の家族のためにも。
この日は必ず、あの場所に…
私が死ぬまで手を合わせにくる。