辺りは暗闇に包まれた。

『アイツが帰って来たら
飯食いに行くか?』
『いや、むりだろうよ。そんな心臓強くないな。昨日、晩にハンドル握れないくらいだからよ…』『だよな~』

『けど、美里ちゃんも
食べないと倒れちまう』
『よし!まだ時間あるから俺らで
食べに行くか?俺の奢りだ!!』

さっと、車のキーをガラステーブルから
手にした。サンダルを履く。

これがいつも周りに気を遣わせない助兄ちゃんの優しさだ。考える隙を与えない。

助兄ちゃんは、普段から
『俺は中卒だから』とか
『頭、わりーからよー』が口癖だが、
美里は全く違うと思っていた。

勉強する環境が与えられなかっただけだ。

たまたまだ。

やったら必ず、みんなより上をゆける人。
能ある鷹は爪隠す。

ブルンブルン…エンジン音が響く。

『どこにすっかな?』
『たまにはロイホ!』『お、いーねー!』

駐車場で気づいた。

あ、いつものロイホだ。田村さんと来た。懐かしい…美里は物思いに耽っていた。

『いらっしゃいませ。お久しぶりです!』
店長が覚えていた。

『はい。ご無沙汰してます』
『美里ちゃん、よく来てたんだ』

『田村とだよ、な〜』
『あ、そうか…。アイツには禁句だな』

『大丈夫。田村さんとまーちゃんが
話し合ってから、私と付き合ったから。
みんな、過去は分かってるんだ』

『そんな進展してたなんて。俺が他の仕事手伝ってる間に。ビックリだよ~』

『あ、忘れてた!美里ちゃんに
田村から伝言預かった。昨日、夜…』

美里のフォークが止まった。

『え??田村さんから?何…』
『わり~わり~。アイツの事故が運ちゃん達から噂で回り、誰かが田村にも伝えたみたいで。心配してかけてきた。俺に。
アイツんち留守だから』

『そうなんだ…』
『美里ちゃんは、ほんとに幸せになれるのか!って。俺と同じ事を考えてた…』

『分かったよ。後で電話する。
自分から話すよ…』

食事が終わり、二人は
タバコをふかしていた。

『助兄ちゃん達がタバコ吸ってる間に、
公衆電話で話してくる。いい??』
『おう。行ってきな!』

ガタッ…早足で外へ。

バタン!ジーコジーコジーコ…

『あの…田村さん??』
『美里?久しぶり!!大丈夫か!!
怪我は酷くないか?…』

『うん、何とか。まーちゃんも無事だよ。心配させて、ごめんね…』
『そんな事いいよ』

『私ね、今日、家出した。昔、結婚とか柵とか、歳が離れてるとか…あんまピンときてなかった。けど…今は違う。そんなの全て捨てる。まーちゃんと結婚する!したいの。一生支えていく。だから…ごめんね…』
『決意は固いな。ほんとは俺、地元の地主の、旅館の娘との婚約破棄したんだ。
一人であれからがむしゃらに働いて起動に乗り出したから、美里を迎えに行くつもりだった。カッコ悪いな俺。場違いだな。
1度はアイツに…頼むなと言ったくせに。』

フタリは息をのむ。

『ごめんなさい。ほっとけないの…
まーちゃん。私が居ないと多分…ダメなんだ。けど、ありがとね。嬉しかった。
そう考えてくれてたなんて。
なんか運命なんだよ。きっと…事故も
アタシたち3人も。こうなる…はず…』

偶然じゃなく必然…

三人は、また歩み始めた。

それぞれが手探りで…
それぞれが仲間のためにと

生きる選択をした。

19歳の美里は
22歳のトラック運転手の人生を
すべて背負い生きる覚悟をし

家族もサークルも、横浜の地元の友達も
お洒落も趣味の日舞もバトンも
モダン・バレエも…何もかも捨てた。

彼だけが
そばに居てくれたら
もう何も要らない。

彼が大切にしている仲間を
自分も大切にして生きてゆこう。

事故より怖いものは
何もない。

自分が食べれなくても
彼だけには温かいご飯を
ひとくちでも
食べてもらいたい。