どれくらい時間が過ぎただろう…

実家に、まーちゃんが送ることになった。
4人で駐車場へ。

『助兄ちゃん、麻里さん、ありがとうございました。また、連絡しますね』

『おう!気を付けてな。元気出しな』

『はい。じゃぁ』

バタン!ドアを閉めた。

助兄ちゃん達に手を振る美里。

あれ?なかなか発車しない…

隣を見た美里は驚いた。

冷や汗をかき、ハンドルを握り締め
ブルブル小刻みに震えていた。

『まーちゃん…まーちゃん??』

問いかけに答えない…

ドンドンドン!

窓を叩く音が響く。

助兄ちゃんが助手席を覗き、
開けてとジェスチャーで。

『まーちゃんが震えてて…具合が悪そうで…』

『おい!だいじょぶか?おい!汗がスゴいぞ。気持ちわり~のか?』

まーちゃんは一点を見つめたまま、
こう言った。

『助ちゃん、わり~手が震えてハンドルが握れない。こんなん初めてだよ。どうしちゃったんだ俺…』

『無理すんなよ。ま、事故って直ぐにハンドル握らせんのも酷だよな。悪いな、気づかなくて。お前、美里ちゃんと後ろ乗れ。俺が運転するから代われよ』

『あ、あたし、電車で帰れます!』

『疲れてんだろ。さあ、早く後ろ乗んな。麻里は助手席』

麻里さんがドアを開けた。
『遠慮しないで』

後部座席に乗り込んだ。

まーちゃんはフラフラしていた。

『大丈夫?まーちゃん…』

美里は顔を覗き込む。

『あー、なんとか。さっきよか、マシ。
情けねーな、俺。助ちゃん、ごめん、頼むわ』『おうよ!』

助兄ちゃんは、わざと明るく返事したようにみえた。

新横浜の駅前はいつも通りの賑わい。
街は何も変わらないのに…なんで…なんで…

まーちゃんなの…

外の景色がぼやけていた。

『美里ちゃん、大丈夫?』

麻里のサイドミラーには美里の
泣いている姿が映っていた。『はい…』

実家に着いた。

夕闇時、パートから母が帰宅していた。

バタン!

『美里?電話くらいしなさいよ~心配したじゃないの!麻里さんちに泊まるって、理から聞いたわよ~あなた、ほんとに麻里さんち?』

洗面所で手を洗う美里の後ろに母が居る。

そっか、弟が嘘ついてくれたんだ。
今度、何か奢るかな。

そんなことを考えていた。

『も~近い、近い~!』

母にはいつも嘘つけない。顔に出やすい美里は悟られぬよう2階へ駆け上がる。

ドアを閉める瞬間…

『あのね、お母さん、昨日、美里が夢に出て来て。急に画面が真っ赤になり、美里が一人でこっち見てた。悲しい顔して。どうしたの?美里?って、話し掛けたら消えたのよ』

怖かった。

母も祖母も昔から霊感がある。

母は霊を見たことはないがよく予知夢を視ていた。当たるから怖かった。祖母は実際に、姉弟の御通夜の晩、寝ていたら出て来て布団を引っ張られ、連れていかないで…と心の中で話したら、消えた…と、小学生の時に聞かされてから美里は怖くて仕方なかった。

そうなんだ。

私が助けて…と祈ったら、伝わっちゃったんだ。けど、私が助けて欲しいのはアタシじゃない…まーちゃんだよ…

そんな事を考えていると弟が帰って来た。

『おねーちゃん、先に帰ってるわよー。ご飯にする?お父さんもそろそろ着くかしら?』『じゃ、風呂入るよ!』

トントントン…2階に来た。ドアが開いた。

『ノックしなっていつも言ってるでしょ!そーゆー、日頃の行いが受験や面接で出るんだからね!普段からやってると作法は身に付くんだからさ』

『あ、いーのかなー?貸しが出来たんだよな~』『そうだった。ま、ありがと!お礼だけは言っとく』

不思議そうな顔で見つめている。

『何?早くお風呂入んな!』
『なんか元気無い?いつも、運ちゃんと逢うとテンション高いのに?何か変?』

『何でもないよ~!』

そんなに顔に出てるのかな?
不安が込み上げてきた。