いわし雲が浮かび、木々の隙間からは木漏れ日。

『おーい!ちゃんと蹴れよ~!』

バンっ!フェンスにサッカーボールが当たった。あんな遠い所から、よく飛ぶな~と感心していた。

大学はエスカレーター式。
附属高校も敷地内にありスポーツも強いため、こんな光景は美里にとって日常茶飯事だった。

『すみません!ビックリしましたよね』『あー大丈夫。フェンスあるから』

そう言ってその場を立ち去り、大学の裏門へと向かった。

『おう!お疲れさん!彼氏来てるよ~!』

裏門の守衛さんは、気さくで物分かりが良い。見た目は柄の悪いヤンキーな、まあちゃんにも、文句も言わず秘密にしてくれて、大学の裏門に横付けしても怒らなかった。フタリを見守ってくれていた。

『あ、ありがとう!おじさんみたいなお父さんなら私も喧嘩したりしなくて済むのにねー』『気を付けて帰れよ!』 

プップッー!クラクションが鳴り出発。とは言っても真っ直ぐ自宅へ。八王子まで迎えに来るほど、まあちゃんは心配性だった。しかし、嬉しくもあり助かっていた。

『先輩が、付き合い悪いなーって。俺たちより男選ぶのかよ~美里は!って怒られたけど、ホントにごめんなさい!って帰って来ちゃったから、今頃キレてるかな?』『俺、中卒だから分かんないけど、サークルって何だか厄介だな~俺はすかん』

『あー、けど楽しいよ~!あのね、うちらのサークルは男子の先輩は八王子の族上がりだよ~だから何でも気合い入ってる。てゆうか、バイク乗り回したりやんちゃしたりしてたのに、よく大学受けたなーって、それが怖い。しかも先輩は法学部。何でも器用にこなすとこが怖い。敵わないよ』『へー、族上がりか~じゃ気が合いそう!』

『あとはボンボンが多いかな?社長の息子もたくさん居るからさ』『へー!』

『あ、このジャンパー!先輩が作ったんだけど、白と赤のリバーシブルでしかも、白に裏返すと名前が腕に刺繍してあるんだよ~!それを横浜から着てこいって。マジだからね~』『え!コレ??レディースの上着じゃないのかよ!そうか~俺でもコレは勘弁だな!』

『今も、帰るなら着てけ!って言われてさ~いじめかよっ!アハハハ』

フタリで上着で爆笑していた。

背中にはゴリラのマーク。ビンゴボンゴとローマ字で。意味がわからず先輩に聞くと、先輩が昔観て感動した映画の題名だとか?美里はピンと来なかったが、大学内では先輩の言う通りに皆でオソロで着ていた。他のサークルの学生からも有名で、ヤンキーサークルでしょ?と小バカにするような影口叩く女も居たが、みんな気が強いので気にも留めなかった。

と言うより寧ろ、一生懸命勉強して同じ大学でしょ?うちら真面目にやったら恐らく上の大学いけるよ??遊びたいからこの大学来たんだよね~自由だし!と、先輩なんかとよく話していた。自分からは人を下に見ないけど、陰口叩くような奴等には倍返しで返す感は、やっぱ皆、元ヤンだよね~と思っていた。ただ敢えて、相手には言い返さないけど。時間の無駄だ。陰口叩く人は何処にでも居るし誰にでも言うからだ。そんな女が一番嫌い。

数日後、友達の手伝いで始めた歌舞伎町のクラブに出勤するとき、コマ前でバカにしてきた女達とすれ違った。また指差して、美里の友達をバカにしてきた。

『あの子、バイトしてたんだぁ~へえ~ヤンキーサークルのくせに』

カツカツカツカツ…

『どーしたの?美里ちゃん?』
『ダメだな。アタシ、友達バカにするやつ許せないんだよね!待ってて』

ピンヒールで早足で近寄った。

『なんか用?友達に』
『あー、アンタもヤンキーサークルの?あのピンクの子、どーにかなんない??同じ国際コミュニケーション学部として恥ずかしいわ~』

『人が何を着ようとアンタ達には関係ないよね。それよか、今からキャバクラにご出勤ですか~うちらはキャバ嬢じゃなくて区役所通りの高級クラブに出勤だから忙しいの。用あんなら、うちの店の面接受けな。受かったら話聞くわ。落とされると思うけど。うちのスカウト厳しいからね〜。ヤンキーど〜のこ〜のゆ〜なら、店来てみな!ちなみにアタシは指定校推薦で入ってんだよね、ヤンキーでも。言わなかったけど一般のあんたらとは違う。序でに、あの子はランク落として来ただけだよ。高校も県でトップ。で、何か他に聞きたいことあんの?無いなら行くよ?うちら時給4500円だからさ、最低賃金が。あんたらの倍。だから時間勿体無いんだよね~では、ごきげんよう』『待って~美里!大丈夫??なんか言われたの?』

『え??全然。スッキリした~言いたいこと言っといたよ~ピンクちゃんの代わりに』微笑んだ。

一番街から戻ろうとすると、出勤前の男友達が居た。彼は他店の店長だった。

『おー!美里~!!運ちゃんとは別れたか?いつ俺んとこ来るんだ?』
『おはよ~さん!だから~別れないから大丈夫!見た目と中身、違うんだよね~自分で言っちゃうけど、一途なんだからさ』

『あ、レイはどうした??ホスト。あ、そーいやー、愛本の男は?』
『だから~ただの友達だよ!フタリとも。あのフタリは共にライバル店のNo.1だよ。ちなみに…レイは…私が他店のホストに付きまとわれてストーカーされてた時に、助けてくれたんだよ!もしも…運ちゃんと別れたら…好きになるかもしれないけどね〜アハハハ。それから…彼はナンバーワンだけど…多分、想像してるような人じゃない。』
『なんで分かんだよ~美里に。そっか、まっ良かったな』

『女の勘かな??あ、お水の勘??レイは何か理由がある気がするからさ…』
『なんのこっちゃ??まいっか』

歌舞伎町は、こんな街。

みんなが身内で誰が何処で働いてるか全員知っていて繋がっている。
知らないのは客だけ。

美里はシャネルのイヤリングを耀かせながら黒いスーツでピンヒールの音を立てながら区役所通りに消えて行った。