営業所に戻る時、少し手前でトラックを降りた。
『寝れずにバイト、頑張ってな』
『うん。今日もおばちゃんとか大学のお兄ちゃん達が居るから大丈夫だよ。重い荷物が流れると皆が集まってきて手伝ってくれるから』
本来は繁忙期は過酷な現場だが、美里にとっては心地良い場所だった。普段通りレーンに並ぶとバイトのおばさんから
『あんた、昨日はホントに泊まったでしょ!』『そうだよ』
『来る前にまたアイツのファンのヤンキー達が騒いでたから。休憩所で運ちゃんの話、立ち聞きしたらしいよ。嫌がらせされないように気を付けなよ~ま、あんたに嫌がらせしたら、うちの息子呼ぶわ。アタシ、話したっけ?コレ息子。横浜の暴走族』
写真には、めっちゃヤンキーがバイクに跨がってる姿が写っていた。
『あ、どうも…けどワタシ、1人で何とかなるかな?みんな女だし』
バイトが終わり、トイレに行こうと階段を上っていたら、昼の運ちゃんと擦れ違った。
『あ、昼はどうも』『こちらこそ』
『そういえば、田村から聞いた?なんか親父さん、具合悪いんっだって?』
『え、そうなんですか!私には何も…』
『あ、ごめん。俺、余計なこと言ったかな?アイツ、一人っ子でさ。長男だから家を継がなきゃいけないからさ。けど。すごい具合悪いって訳でもないから、美里ちゃんにはまだ話さなかったのかな。わりー、聞いたの内緒にしといて、一応』
『あ、はい。分かりました…』
なんか寂しかった。何でも彼のことは知りたかった。けど、真面目な人だから、色々、心配かけたくないと思ってくれたのだろう…と自分に言い聞かせていた。
いよいよ4月。美里は大学生になった。バイトは休み、新歓コンパやサークル勧誘が毎日のように続いた。大学の中でも国際コミュニケーション学部は、お水ばかりと言われていた。他大学からは、坊っちゃん、お嬢ちゃん大学と言われ、現にエスカレーター式の子はそんな感じ。ヤンキー上がりの美里は友達が出来るか不安もあった。しかしクラスにはイイ子ばかり。華やかな大学生活の始まりだ。
仲の良い友達と歩いていると
『スキューバダイビングサークルに入らない?見学だけでもさー』
それこそドラマに出てくる華やかなお兄さん、お姉さん。
『そんなに泳ぎ自信ないし、やったことないからな~』
そんな感じで話していると、割り込んでビラを渡してきた先輩が居た。
『オレらオールラウンドサークル!きみの願い全て叶えちゃう!』
軽い男はキライだから内心、図々しいただのナンパ男だと思っていた。沢山のビラをもらい学食でlunchしながら眺めてると
『ね~、アタシ、オールラウンドがいいな!』『やっぱり~アタシも~美里は?』『うーん、よく分かんない。けどスキューバダイビングがお金掛かるのだけは分かる。親に迷惑かけたくないな。バイトも直ぐに間に合わないし』
『じゃ、決まり!先輩たちもカッコいい人、こっちのが多いし』
わりと単純に決まった。数日後、借り入部の日が近づいてきた。廊下でスキューバダイビングの先輩に囲まれた。
『今日、来てくれるよね!』
『あの~友達と話したんですけど、ごめんなさい。行けません…』
『えー!いーじゃん、今から行こうよー!』
数人に囲まれてムリに連れて行かれそうになったとき、誰かが肩に手を回し頭を撫でてきた。
『あ、わり~!この子、俺の彼女になったから悪いけど手出さないでくれる?』『え、ホント?嘘だよな?ねー、嘘だろ?』
キスする振りして耳元で
『はいって言いな』と囁いてきた。
『あ、はい』
そのまま彼は美里を連れ、校舎前まで送った。
『この前、ごめんな。強引にチラシ渡して。あいつら、しつこく勧誘したり毎年、よくない噂が耐えないから。危ないなと思ってさ。それとまじで入って貰いたいのもある。どう?考えて貰えるかな?』
『友達は入りたいと言ってました。私もそうしようかな?』
『ありがとな!新歓コンパ、聖蹟桜ヶ丘でやるから来てね!ビラに書いてあるから』『はい』
私の勘違いだった。図々しい男じゃなかった。あの時も助けられてたんだ。いつの間に…
コンパの日になり集合場所へ。
『美里ちゃーん、こっちー!』
皆が振り返った。
『ねー、いつの間にー!抜け駆けズルいよねー、ゆみちゃん』
『なんでイチオシの先輩が名前知ってるの?何処で仲良くなったの?』
『あー、大したことじゃないから話さなかったんだけど、スキューバダイビングの先輩にしつこくされてるときに助けてくれた』『なーんだ、じゃ、よしっ!』
二人はたくさんお酒飲み酔っぱらいだけど、美里は一滴も飲めない…飲まされそうになったらまた先輩が助けてくれた。ホントにイイ人なんだ。勘違いをしていた自分が傲慢な人間に思えた。ふと、田村さんの言葉を思い出した…
美里ちゃんは、周りのヤンキーと違いすれてなくて純粋だからスキなんだよな…俺
大学に入り、浮かれているうちにいつの間にか自分が変わっていたら…そう思うとちょっと怖い気がした。