おとつい、東京春祭 for Kids 子どものためのワーグナー 《さまよえるオランダ人》
(バイロイト音楽祭提携公演)を聴いて参りました。
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  ワーグナー:《さまよえるオランダ人》(抜粋)
 指揮:ダニエル・ガイス
 演出:カタリーナ・ワーグナー

オランダ人(幽霊船の船長):友清 崇(Br)
ダーラント(ノルウェーの貿易船の船長):斉木 健詞(Bas)
ゼンタ(ダーラントの娘でオランダ人を思慕):田崎 尚美(Sop)
エリック(狩人、ゼンタの許婚):高橋 淳(Ten)
マリー(ゼンダの乳母):金子 美香(Ms)
舵手(貿易船の乗組員):菅野 敦(Ten)
 管弦楽:東京春祭特別オーケストラ
 音楽コーチ:ユリア・オクルアシビリ
 監修:カタリーナ・ワーグナー、ダニエル・ウェーバー、ドロシア・ベッカー
 編曲:マルコ・ズドラレク
 美術:Spring Festival in Tokyo
 照明:ピーター・ユネス
 衣装:Spring Festival in Tokyo(オリジナル版<2016 / バイロイト>:イナ・クロンプハルト)
 プロジェクト・マネジメント:マルクス・ラッチュ
 芸術監督:カタリーナ・ワーグナー

ドイツ語上演(セリフ部分日本語)日本語字幕付/上演時間:約1時間00分

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斉木さんは昨年11月、日生劇場の東京二期会オペラ劇場《後宮からの逃走》オスミン役<指揮:下野竜也さん、演出:ギー・ヨーステンさん、キャスト:大和田伸也さん、安田麻佑子さん、宮地江奈さん、山本耕平さん、北嶋信也さん、斉木健詞さん、合唱:二期会合唱団、管弦楽:東京交響楽団、他>に続いて。

田崎さんと、金子さんは2017年11月、日生劇場のNISSAY OPERA《ルサルカ》ルサルカ役、森の精3役<指揮:山田和樹さん、演出:宮城聰さん、キャスト:田崎尚美さん、樋口達哉さん、清水那由太さん、清水華澄さん、腰越満美さん、小泉詠子さん、デニス・ビシュニャさん、盛田麻央さん、郷家暁子さん、金子美香さん、新海康仁さん、管弦楽:読売日本交響楽団、合唱:東京混声合唱団、他>以来。

高橋さんは昨年6月、サントリーホール大ホールの歌劇《イオランタ》ベルトラン役<指揮:ミハイル・プレトニョフさん、管弦楽:ロシア・ナショナル管弦楽団、 キャスト:アナスタシア・モスクヴィナさん、ナジミディン・マヴリャーノフさん、平野和さん、大西宇宙さん、ヴィタリ・ユシュマノフさん、高橋 淳さん、ジョン ハオさん、山下牧子さん、鷲尾麻衣さん、田村由貴絵さん、合唱:新国立劇場合唱団、他>以来。

菅野さんは昨年10月、神奈川県民ホール・オペラ《アイーダ》伝令役<指揮:アンドレア・バッティストーニさん、演出:ジュリオ・チャバッティさん、原演出:マウリツィオ・ディ・マッティア、キャスト:木下美穂子さん、城 宏憲さん、サーニャ・アナスタシアさん、モニカ・ザネッティンさん、上江隼人さん、斉木健詞さん、清水那由太さん、松井敦子さん、菅野 敦さん、合唱:二期会合唱団、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、他>に続いて。

三井住友銀行東館ライジング・スクエアは2017年4月、ヴィタリ・ユシュマノフさん(バリトン)のミニコンサート<ピアノは山田剛史さん>以来です。

ここからが本題です~~~~~~~~~~~~~~~~~

本公演は、東京・春・音楽祭2019の一環で、サイトの解説文に『バイロイトで2009年から導入され、難解と思われがちなワーグナーのオペラを、小学生くらいの子どもが親しみやすいように編曲し、本番と同じ演出とトップクラスの歌手で上演する贅沢な催し。演出は音楽祭総裁のカタリーナ・ワーグナー(ワーグナーのひ孫)』とあります。台詞部分は日本語、歌唱部分は原語ドイツ語による約1時間の公演です。

子供向けのオペラを鑑賞するのは2012年11月、神奈川芸術劇場でのウィーン国立歌劇場による“小学生のためのオペラ《魔笛》”以来です。今回も大人用のチケットが販売されていて聴いて参りました。東京春祭 for Kidsという企画なので、前のときと同様、後ろの方で目立たないようにして鑑賞。

《さまよえるオランダ人》は、永年悪魔の呪いが解けないでいる幽霊船の船長と、その船長の運命を憐れむ若い女性が天国で結ばれるというオペラで、「愛と女性の自己犠牲による救済」というワーグナーのライフテーマが初めて明示された作品とされてます。

30人編成のオーケストラ(コンサートマスターは山口裕之さん)によって序曲が奏でられるなか、ステージでは既に留守を預かるゼンタとマリーの様子が演じられ、子供たちを演技に引き込もうとする演出ワーグナーさんの意図が感じ取れます(つかみが大事です)。

序曲では、呪われたオランダ人のテーマを金管の雄叫びのような不気味さで、ゼンタの救済のテーマは木管で穏やかに、弦は荒海の緊迫感を、ガイスさんの指揮で適確に表現されてました。

この俯瞰的な構成の序曲は、オペラ序曲のお手本と言えるかもしれません。

友清さん(オランダ人役)のモノローグの悲壮感に凄みがありました。ゼンタ(田崎さん)は、それが「さまよえるオランダ人」の絵本に書かれている言葉通りであることに気付き、運命を感じます。

斉木さん(ダーラント役)は台詞も重低音で、今回日本語でしたのでストプレを観ているようです。でも歌い出すとそこはオペラ歌手、深く響く歌唱が素敵でした。

田崎さん(ゼンタ役)はバラードが圧巻でした。広音域に跳躍音、表現的にも運命的な力強さと救済の穏やかさが要求される難曲を見事に歌い切りました。

高橋さん(エリック役)の高らかで明瞭な歌唱も光りました。終盤の田崎さんとの二重唱では、お二人の声量に圧倒されました。

昨夏バイロイトデビューを果たされ話題になった(ワーグナー一家に芸術性が認められた、日本人歌手では4人目だそう)マリー役の金子さん、さすが堂に入った演唱ぶりでした。

菅野さん(舵手役)は、張りのある高音が良く伸びてました。

一時はゼンタとの愛が成就し、これでやっと魂が救われると感じたオランダ人ですが、エリックの存在を知って裏切られた思い、先の見えぬ流離いの航海にまた旅立つ決意をします。

ゼンタが、それは誤解よ!ゴカイといっても釣りの餌でないわよ実際、とドイツ語で言ったか分かりませんが、忠誠を捧げるため彼女は海に身を投げます。

この自己犠牲によってオランダ人にかかっていた悪魔の呪いが解け、二人が手と手を結び合う直前で舞台が暗転し、幕となりました。ラストのハープ(篠崎和子さん)も素敵でした。

for Kidsということでしたので、役柄的にはゼンタは乙女チックを前面に、マリーには意地悪おばさんが入っていて、それはそれで楽しめました。

お子さんたちの舞台に見入る様子も印象的でした。

~余談~

会場の三井住友銀行(本店)東館では、夏場を除き毎月一度、無料のトワイライトコンサート(約60分)が開催されています。

同コンサートは2008年9月に、2年後の大手町ビル(旧東京営業部)取壊しを前に「周辺で働いている方々へ恩返しをしたい」という三井住友銀行東京営業部部長(当時)の発案で始められたイベントだそうです(先日、その第100回記念コンサートが開催されました)。

私が初めてそちらに伺ったのは、第30回のスペシャルコンサートの時で、堀正文さんらN響の首席・次席で構成された弦楽5重奏と、東京オペラシンガーズの若手12名によるトリプルカルテットのコラボという豪華な出演陣で1時間15分の公演、お客さまには500円のテレホンカードが配られました。

それに味を占めた訳ではないですが、国内外の錚々たる演奏家の演奏が無料で聴けるありがたい公演に、その後もちょくちょくお邪魔するようになりました。

第31回から第68回までは日比谷通りを挟んだ本店ビルロビーに場所を移して開催されました。

画像は第58回、若手マリンビスト大熊理津子さんの公演時の開演前の様子です。この日は開演と日没の時間が重なって、次第に暮れていくビジネス街をバックにした演奏は幻想的でとても素敵でした。



第69回から、また元の場所(大手町ビル解体後に新しく建った三井住友銀行東館)に戻って現在につながっています。画像は第69回の時のものです(堀正文さん<ヴァイオリン>、加藤洋之さん<ピアノ>がご出演)。視覚的な開放感は失われましたが、壁全体に立体パネルが貼られるなどして音響面がより考慮され、建物自体ロビーを最初からコンサートにも使えるように造られた感じです。



個人的には、その頃から他のものも含め音楽の公演に伺う回数が減ってきて、東館にも次第に足が遠のき、前述したように今回はヴィタリさんの公演以来で、約2年振りでした。

私が顔を出し始めてから9年間、そこでしかお目に掛かれない音友も出来(そちらでは玉露のギョの字も出ません、尤も他所でも抹茶さんと呼ばれるのが精々ですニコ)、そのうちの一人とは現在も交流があります。

あと余談の余談ですが、ヴィタリさんの時、演奏が素晴らしかったので(それまでにもコンクールで2度聴いてます)Hさんと二人、閑散とした夜のビジネス街でヴィタリさんを出待ちしました。

出待ちと言えば...1964年東京オリンピックの男子バレーボールチームに(女子は金メダル、男子は銅メダルを獲得)、出町豊という選手がおりまして、セッターながら垂直跳び1メートルのジャンプ力を有しておりました。

垂直跳びと言えば...「垂直跳び日本記録」とか「垂直跳び日本一」とかで検索されると、大抵拙ブログがトップに表示されます。「日本一寂しいブログ」でも時折りヒットします。以前コンサート会場で「日本一マイナーなブログをされてる方ですよね?」と、お声を掛けられたこともございます(Shevaさん、お願いしますよホントニニコ)。

この日《オランダ人》の公演が終わったのが午後3時、帰りは日比谷交差点近くのホテルでお茶しようと決めてましたので、歩くのが苦手なHさんを騙し、騙し大手町から日比谷までお堀端(箱根駅伝第1区のコース、地下鉄千代田線だと2駅分)を歩きました。

この道沿いにも結構思い出がありますが、一番印象に残っているのは、やはり小さい頃の記憶で、私が恐らく小学校の低学年だったと思います、初めて演劇というものを観に帝劇に連れてこられた時のことです。

当時(桜の咲く憧れの校門をくぐって早三年←それは答辞)帝劇の最寄り駅だった都電日比谷交差点停留所に降り立ち、左に見える皇居の石垣とお堀、向かい側の明治生命館や帝劇などのクラシカルな佇まいに心奪われました。旧帝国劇場↓




そのとき何を観たか私は全く覚えてませんが(扉に観音開きの小窓があった記憶はあり)、この度の《オランダ人》を観た子供たちの心に、オペラの記憶がどう残っていくのか興味深いです。歌とオケの生の迫力は忘れないと思いますが。

Hさんは昔(大昔でないヨ)花嫁修業で、帝劇のお隣り東京会館の料理教室に通おうとされてらしたそうです。アクセス面を考えて銀座三笠会館の方に通われたということですが、そのとき覚えた料理のコツは、今日演奏会の休憩時に食べるオニギリを作る際にも役立っているとのことです(ただ、せっかく作っても必ずと言っていいほど出掛けに玄関に置き忘れてきてらっしゃる)。

目的のホテルのカフェに着いて「パンケーキ」を注文、カトラリーは銀製です。こちらのカフェはマンゴープリンが有名ですが、LOが午後5時なので食べに来る機会はあまりありません。恐らくHさんとも4、5年振りだったと思います。



嗚呼、今回は余談の方が長くなってしまいました←よー談では済まないよ!

次回のブログ更新はメモ大分間が空き再来月の初め、(東大和市民会館ハミングホールのSHINZO KINEN OPERA《カルメン》5/3のレポ)を予定しております。

マタネ