先日、新宿・牛込箪笥区民ホールで《カプレーティとモンテッキ》を聴いて参りました。
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音譜ベッリーニ 《カプレーティとモンテッキ》
  指 揮:柴田真郁
  演 出:岩田達宗
  ピアノ:星 和代

ロメオ(モンテッキ家の指揮官、ジュリエッタと相思相愛):寺田宗永(T)
ジュリエッタ(カプレーティ家の娘、テバルドが許婚):髙橋絵理(S)
カペッリオ(カプレーティ家の当主、息子をロメオに殺されている):大沼 徹(Br)
ロレンツォ(カペッリオの親類、ジュリエッタの相談相手):大澤恒夫(BBr)
テバルド(カペッリオの側近、ロメオの政敵かつ恋敵):布施雅也(T)
  スタッフ:
  舞台監督/荒牧大道(うずめ劇場)
  照明/しもためぐみ
  合唱指導/石塚幹信
  音楽スタッフ/神保道子
  イラスト/Mari
  デザイン/太田公士
  スペシャルサンクス:熊谷香保里、田中彰子、劇団K-Show
  主催・制作:NPO法人オペラ普及団体ミャゴラトーリ 首藤史織

  全2幕/イタリア語上演/オリジナル字幕付き/上演時間:約2時間14分32秒(大体です)

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今回の記事も長いです。2万字の字数制限が現実のものになってきそうです。

寺田さんと、大澤さんは2014年7月、座・高円寺2のミャゴラトーリ公演《ラ・ボエーム》ロドルフォ役、コッリーネ役<出演:髙橋絵理さん、見角悠代さん、寺田宗永さん、須藤慎吾さん、大沼 徹さん、大澤恒夫さん、志村文彦さん、大澤 建さん、武田直之さん、青柳素晴さん、指揮:柴田真郁さん、演出:岩田達宗さん、ピアノ:古藤田みゆきさん 他》以来。

髙橋さんは2015年1月、かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホールの、黒い薔薇歌劇団旗揚げ公演《魔笛》侍女Ⅰ役<出演:大塚博章さん、塩田美奈子さん、砂川涼子さん、鈴木准さん、鵜木絵里さん、宮本益光さん、髙橋絵理さん、青木エマさん、小林由佳さん、加茂下 稔さん 他>以来です。

大沼さんは今年4月、かつしかシンフォニーヒルズ・アイリスホールのWE♥MOZART<出演:鵜木絵里さん、針生美智子さん、下園理恵さん、望月哲也さん、大沼 徹さん、宮本益光さん、藪内俊弥さん、ピアノ:石野真穂さん、髙田恵子さん、山口佳代さん、演出:田尾下 哲さん>以来。

布施さんは2012年12月、日本橋髙島屋のクリスマスミニコンサート<出演:村元彩夏さん、末 千紘さん、布施雅也さん、ヴァイオリン:清岡優子さん、ピアノ:栗田奈々子さん>以来です。

ミャゴラトーリ公演を聴くのは今年で4回目、今回付き合ってくださったHさんは3回目です。

《カプレーティとモンテッキ》は初聴きです。オペラの題材であるロメオとジュリエットは元々イタリアにある物語で、シェークスピアの有名な戯曲とは直接の関係はないそうです。

13世紀のヴェローナが舞台で、血で血を洗うカプレーティ家とモンテッキ家の宿命の闘争を背景に、恋仲にある両家の子女の悲劇が描かれています。

開演に先立ち、どの会場でもそうですがいつもの注意事項が...携帯電話をお持ちの方は電源を切るか、ガラケーの方はいい加減スマホに買い替えた方が良いですよ、とか。←是非読み流してください

会場の照明が暗転し、いよいよかな…と思っていたら、ステージ下手から白塗り口裂けメイク、全身黒ずくめ、妖気に満ちた不気味な男性が、すうっと音もなく登場し角度を変え(休憩時間に実際に分度器を当てて測ってみたら丁度右90度)、客席に近づいてくるではありませんか 叫び

男性は踵を返すと、腕を力強く振り下ろしました。指揮者の柴田さんでした。岩田ワールドがもう始まってます。

客席横のドアや後方から、やはり全身黒ずくめの人たちが集まってきました。モンテッキ家に敵意を燃やすカプレーティ家の家臣役15名(男声コーラス)です。今回も見事に仕上がってます。

テバルド(布施さん)が皆に、領主の使者が和平の交渉に訪れることを告げますが、「和平は断じて受け入れられん!」と、当主のカペッリオは言下にはねつけます。大沼さん(カペッリオ役)が、知らぬ間に客席通路に立ってました。

大きなカンパニーでプリマ、プリモを張っている歌手たちが、我々の直ぐ前、直ぐ横で演じ歌うところが、ミャゴラトーリオペラの魅力のひとつです。

ジュリエッタの良き理解者であるロレンツォ(大澤さん)が登場し、もう憎しみ合う争いは止めにしようと進言しますが、カペッリオは耳をかしません。大澤さんの骨太な演唱振りは今回も光彩を放ってました。

カペッリオに晴れてジュリエッタの許婚と指名されたテバルドは、ロメオへの仇を打つと誓い<復讐を果たすのはこの剣>、さらにジュリエッタへの愛を歌います<ああ、私は彼女をこよなく愛する>

デバルド役の布施さん、前者は力感溢れる歌唱振り、後者はリリカルな雰囲気です。

ヴェローナに平和を願う領主の使者(実は変装をしたロメオ)が3人の従者(黙役)を伴って、和平の交渉に訪れます。使者は和平を申し入れるとともに、和平の証としてロメオとジュリエッタとの結婚を提案します。

「ご子息は運命の犠牲者であって、責められるべきはロメオではなく運命です。これからはロメオを新しい息子として受け入れてほしい」(結構虫のいい話)

これをカペッリオが「まあ、それもそうだにな」と受け入れていたら事態は大きく変わったと思いますが、「新しい息子はもうとっくに見つけてまっせ。ウチはウチで結構やっていけますさかい、余計な世話焼かんといて!こちとら江戸っ子だい」と一蹴します。

そして、カペッリオは使者を追い返すどころか、お持たせの花束で従者を張り倒し、これでもか、これでもかと追撃を加えていきます。これにはビックリです 目

余談ですが、倒された従者は翌日ロレンツォ役を演じる予定のYさんです。以前ある会場でリハの後お二人が連れたって会場から出てらした所をお見受けしてたので、大沼さんがYさんに対して個人的な恨みをお持ちとは思えませんが...

高校時代の体育の授業を思い出します。前屈の柔軟運動で背中を押す生徒に体育教師が「真の友情を発揮しろ!」

話はここで終わってません、続きがあります。デバルドは懐からピストルのような物を取り出しな、な、なんと従者2人を撃ち殺します、女性の従者も前日ホームセンターで購入したとみられる包丁で家臣に刺し殺されてしまいます。

口々に「神への義務、一家の掟」と唱え、和平どころか両家の対立は決定的なものとなっていきます。

意に添わぬデバルドとの結婚式を前にして、ジュリエッタ(髙橋さん)は悲嘆に暮れています。ロメオへの熱い想いは募るばかりです<ああ幾たびか>美しく悲しい旋律と装飾的歌唱が同居した名曲です。

フレーズが長く歌いにくそうなアリアですが、クセのない素直な歌唱で綺麗に紡ぎ、聴く者のこころに染み入ります。早速に留学(留年ではないですヨ)の成果が発揮された感があります。

そこにロレンツォの手引きでロメオが現れ、二人は抱き合います。ジュリエッタに一緒に逃げてくれと懇願しますが、彼女は家と父と名誉を捨てることはどうしても出来ないと聞き入れてくれません。ロメオは人の気配にやむなく立ち去ります。

このオペラでは、ロメオ役は通常メゾがズボン役で演じられるようです。寺田さんはもちろん男性ですが雰囲気とお声に独特の透明感がおありです。寺田さんも留学でパワーアップされた印象です。

~第2幕~
第1幕と同様、白塗りの柴田さんが音もなく登場します。前回、前々回とプロローグを担当された柴田さんは、今回は最後までひと言も発しませんでした。

指揮の自在な位置取りはいつもの通りです。的確なキュー出しとベッリーニの流麗な音楽を巧みに演出されてました。

ピアノの星さんも昨年に続いてです。今回ピアノに関して大変なハプニングがあったと後で知りました。でも本番は終始落ち着いた演奏ぶりでした。

医者であるロレンツォは、テバルドとの結婚を逃れジュリエッタとロメオとを一緒にさせる為ある秘策を持ち出します。

それは、ジュリエッタに強い眠り薬を飲んで貰い、死んだと見せかけて、墓に駆け付けたロメオと一緒に逃げるというものです。計画は後でロメオに伝えておくと。

ジュリエッタは恐々と秘薬を飲み干します。そしてそこに父のカペッリオが現れます。ジュリエッタは、「私を強く抱いてください玉露さん wow じゃない 失礼 お父さま。一度でいいから怒りを収めて!お願いです。怒りや憎しみはもう沢山です」...

涙なしでは聞けませんでした。そのときの絵理ちゃんの綺麗だったこと.。o○

カペッリオは全く聞く耳を持ちません。そればかりか(バネばかりでないヨ)二人の様子に不審を抱いた彼は、ロレンツォを幽閉するよう部下に命じます。

カペッリオ役の大沼さんの存在感は圧倒的でした。復讐の鬼と化した迫真の演技、酷薄さ。小道具の杖も効果的でした。

ロメオがひとりロレンツォを待っている所に、デバルドが通り掛かり、二人は剣を抜き合い決闘に及びます。

そのとき、ジュリエッタの死を知らせる悲しい合唱が聞こえてきます。絶望したロメオは剣を捨て、テバルドに「俺を殺してくれ!お前は生きろ」と頼みます。

テバルドも又こうなった責任は自分にもあると、良心の呵責にさいなまれ、ロメオに「お前こそ生きてくれ」と訴えます。

憎しみあうことの空しさを知った二人は恩讐を越え、強く抱き合います。実に麗しい光景です。

ロメオがジュリエッタの墓に走り去ったのち、ひとり残されたテバルドはロメオに向けようとしていた銃口を自分に向けます。そして舞台袖に引っ込み、ややあって銃声が響きました。

ロレンツォが幽閉された為、計画を知らされなかったロメオは、ジュリエッタは死んだものと思い、後を追い毒を飲みます。

その時、ジュリエッタが深い眠りから覚めます オーマイガー ジュリエッタから事の次第を聞きますが、時すでに遅く、毒が回ったロメオは絶命します。

リブレットではそのあと絶望したジュリエッタも後を追うことになってますが、ジュリエッタの絶命シーンは岩田演出ではぼかされています。

騒ぎを聞きつけて駆け付けた両家の人たちの中に、死んでいった使者の亡霊が見られました。デバルドの顔もそこにありました。

カペッリオの「誰が二人を殺したんだ」という叫びに、彼らは一斉に「殺したのは、お前だ」と声をあげ(このふたつの台詞の字幕の地色は、それまでの白ではなく薄茶とも肌色ともつかぬ異様な色でした)、通常は頭を抱えて茫々然として立ちつくすカペッリオの姿で幕となる訳なのですが...

次の瞬間、舞台中央にすくっと立つジュリエッタが照明に映し出されました。その姿は神々しくもありました。ジュリエッタが生身か、亡霊かは知る由もありませんが、それは争いのない世界を願っているように見えました。

大掛かりな舞台装置や、多人数のオケや合唱に彩られ、長年継承されてきたオペラも勿論素敵ですが、小規模であても、歌や演技を通して何を訴えたいのかの原点に立ち返ったこうしたオペラ。キャストやスタッフ各々が使命感を持ちそれに向かって邁進するオペラ。その素晴らしさを今回も実感することが出来ました。


帰りは新宿南口で、「海老とアボガドとモッツァレラチーズのトマトクリームオムライスドリア」(舌を噛みそうな..でなく、噛んで注文するのが正式です。小太り ニコ 海老とアボガドのアレでも通じます)



次回のブログ更新はメモ今月半ばの予定で、先日聴いてきたチャリティーライヴの様子をお伝えします。



マタネ