日本オリジナルミュージカル「アンドレ・デジール最後の作品」 | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。


2023年9月22日18時30分公演


秋のおとないを告げるかのような雨の日。

大手町よみうりホールでの公演、行って参りました。

このホール、宝塚のトークショーやらそれこそ仕事のセミナーなどで行ったことありますが、ちゃんとした(というのも変だけど)舞台をかけられる造りなんだなーと思いながら。

読売新聞東京本社内にあり、それ自体がまだかなり新しいので、ピカピカです。


才人高橋亜子さんの脚本、最近の若手ピアニストの中では屈指の知名度を誇るであろう、清塚信也さんの音楽。出演者がみなさま仰せでしたが「どこにもお手本のない、誰も見たことのない」オリジナルミュージカルの初演です。


そもそも日本って「お手本のない」が死ぬほど苦手ですよね。私とて、中国の中華思想なぞ「ゴーマンで嫌い」より先に「なんでそんなに自信あるんだよ…しょっちゅう間違えてきたのに」なんてあきれてしまう方。でもそれがあるから中国なんだろうと思し、止められぬ。「華」とは文化のことなんだそうです。

翻って、日本はいちからの世界観構築とか秩序の創出とか、とても苦手な国民だと思います。佳きものはみな、外からやってきた…。


おじさんたちが政治家に「今こそ世界でリーダーシップを」とか言うけど、そんなこと無理なんですよ。そんな国じゃないんだもん。


あらら、話大幅にそれましたけど、そんな日本人の日本人による、日本人のための(…かどうかはわからないけど)ミュージカル。

総じて、とてもよかったと思います。

絵画の話だから舞台装置はとても美しくて転換もよい。映像の使い方も「費用削減」ではなく必然性が感じられました。

ストーリーの根っこは「共感」「共震」みたいなもの。あるいは…ひとは誰かとともにいてこそ、何かを作り出せる…みたいなことだろうか。


オチはなかなかよくできていて、なんか悲劇を予想したけど仄かなハッピーエンディング。孤独な天才画家がここで見いだしたインスピレーションの源泉は、高尚なインテリや挫折した芸術家なんてのではなくて、ガサツだけど気のいい介護士なのでした…。


主演のエミールはウェンツ瑛士さん。アイドルみたいにバラエティーとか出てるけど結構な舞台人なんですよね。芸術家の繊細さが出ていて、とてもよかったです。

相方は上山竜治さん。心が動くと言葉になる、という設定の人物がぴったりでした。エミールと悲しい別れをしたきり出てこなかったけど、彼の活躍に幸せを感じながら旅立ったと思いたい。きっと普段から明るくておしゃべりなひとなんだろうなーと思っていたら、案の定ご挨拶も長かったです(笑)


さて、めちゃくちゃ久しぶりに水夏希さまを観ましたが、存在感はさすがの元・人気トップスターさま。主人公を励ますところなんて、昔の男役っぷりがよい方に出ていたと思います。

綾凰華ちゃんは、主人公の母親やったりバレリーナやったり。バレエはちゃんとポワント履いててびっくりしました。さぞ練習したんだろうなー。

ここぞというときの(女性の)歌は熊谷彩春ちゃんが担当。初めて拝見しましたが姿は可憐、声も愛らしい。ほんと、こんな人があちこちに山のようにいるから、ミュージカル界も大変です…。


絵画のことは学校で習う以上のことはたいして知らないので「へーこんな画家がいたんだ」と思ってた私ですが、どうもこの画家もフィクションのようですね。まあ確かに「贋作」とか出てくるから実在の人だったら名誉毀損ものか。

とはいえ、細かなエピソードとか、必ず絵に入れていた「あるもの」とか…とても真実味があったので、そのままではないにしろモデルがいるのかしら?と思ってしまった。ここまで構築した高橋さん、素晴らしい❣️

ただ一個だけ瑕疵があるとしたら、日記…かな?この階層の女の子は、字はかけなかったんじゃないかしら?と。


オリジナル作品の初日は、みなさまさぞ緊張されると思います。「初めて世に出すものには、実際にお客様が入って反応を実感してこそ、わかることがたくさんあり、それによってまた進化していく」とのコメント、本当にそうだと思う。


評判作の再演には前上演との比較がついて回り、それにも大変さはあると思うけれど…やはりゼロから自分に向けて作品を書いてもらうこと、それを成功に導くこと、それが役者としての力量であり、醍醐味なんであろうとしみじみ思います。


本作品、今日が東京千秋楽。これから大阪に回るそうです。成功を祈ります。