この陰鬱なる物語…「ファントム」拝見。 | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。


2023年9月9日12時30分公演

友人に誘っていただき観劇。
非常によかった…友人に感謝です。エリックは城田優さん、カルロッタは石田ニコルさん。

見終わって印象深かったのは、閉じ込められて育ったエリックの幼児性…でしょうか。現代ならあーでもないこーでもないといっぱい病名(?)を付けられそうな生育歴。そりゃまあ、キャリエール除いたらほぼ一人っきりで育って、社会性なんて育つわけない。すぐ怒ってひどい言葉を投げるし、飽きっぽかったり、妙に素直だったり。

うーん…このへん、宝塚の「ファントム」には、今日ほどは強く感じなかったんですよね…(演者のせいではなく私が鈍感なせいだと思う)。
城田さんのような、堂々たる長身の美丈夫が子どもっぽい言動をすると、ちぐはぐさが際立って、その歪みで行き先の悲劇が予想される。
宝塚の男役が演じると…もともとは女性なので少年性がしっくりなじみすぎる=華奢で声も高い=違和感なし、なのだと思うのです。
女性→男性をつくる→でも(ファントムでは)少年ぽい男性…って、一周回ってしまう。
宝塚的には、なかなかの難役だったのだなーと今さらながらに感じます。
クリスティーヌに顔を見せて逃げられたときから、少しずつ正気を失っていたんじゃないかというのも、今回の城田さんを観て初めて思いました…。

エリックの幼児性というのはこの作品の悲劇性を握るひとつだと思うので、「ファントム」に関していうと宝塚よりストレートなミュージカルの方に適しているのかもしれないなと。←個人の見解です。
望海さんが宝塚で「ファントム」をやると発表されたときには、
・おそらく、これ以上いいミュージカル作品は彼女には来ないだろう。そんなに任期残されてないし
・これが折り返し地点かな?
・(ファントムやらせるから轟さんいいよね?と交換条件出されたんじゃないのかしら)
…ってなんとなく疑い深くなっていた私。
もちろんだいきほの「ファントム」は素晴らしい出来だったと思いますし、今でも友人たちは
「次、宝塚でファントムやるひと大変よねー」
「ハードル極限まであがったものねー」
と言ってくれます。
…なんだけどやはり、贔屓だから目が曇っていて、いろいろと正当に評価できてなかった面もあるんじゃないかしら、と今は思う。
とにかく、楽しみたい、泣きたい、もうこれきりかもしれないのだから、と変なアドレナリンが出ていた…あまり健全ではないですね…。

【キャスト別に】
城田さんは姿もよく声もよく、ザ・スター!というに何の不足なし。芸能界に入るべくして来た、という方ですね(市井にいたら目立ち過ぎ)。歌も、とびきりアカデミックというのとは少し違うけどとても心地よく聞けます。見た目も実力も兼ね備えて、お客を呼べるスター。今回は演出もなんですね。
シャンドン伯爵も似合ったにちがいない。ちょっと観たかったかも。

真彩さん、クリスティーヌ役者です。これくらい天上に響いて歌えないと「天使の声」の説得力なしですね。
鈴を転がすような高音は文句無し。でも迫力ある中音も素敵なひとなので、そういう役もいつか観てみたい。
彼女の一番好きな場面は「ビストロ」なんですけど、あら、ここってエリックはサポートしないのねー。クリスティーヌ、意外と自立してます。
つい、回想してしまうのだけど、この歌の途中で「シャンゼリゼをー🎵」って咲ちゃんと凪さま、じゃなくてキャリエールと伯爵が励ますように入るのがほんとに幸せな場面過ぎて、いつも涙が滲んだのを覚えています。
後追いの高音を、センターで有栖妃華ちゃんが歌っていたなー。

カルロッタの石田ニコルさん。
「マドモ」やら「薔薇サム」やら、意図せず観ることが多いかた。どんどん上手くなってますよね。これからもお目にかかることが多いかも。可愛いので20代かと思ってたけど、脂ののってる時期なんだな。

岡田浩暉さん、のぞみさんの出演作でも「N2N」やら「DreamGirls」やらで拝見し、すっかり覚えてしまいました。いい役者さんですよね。定番ですけどエリックとのデュエットは、泣かない人はいないでしょうよーズルいわー。
公式で見ると178cmあるらしいのに、城田さんと並ぶと「育ちすぎた息子と並ぶ」といった見えかた。12センチも差があるとは、びっくり。

みなさまご存じのストーリーはといえば、ほんと酷い話で、真剣に受け止めると陰鬱の渕に沈みそうになる。
ガストン・ルルー(私にとっては「黄色い部屋の謎」の作家)はなんだってこんな暗い話を書いたんだかよくわかりませんが、ゴシックロマンというか、ホラー小説の走りなのかな?
執筆動機にオペラ座の伝説とかも下敷きとしてありそうで、やはり「舞台」ってものは魑魅魍魎が跳梁跋扈するところなんでしょうか…?
果たされなかった野望、争いの果ての栄光と挫折…そんなものが入り乱れているのかな…。

この哀しい昏さに、イエストンの音楽は合ってるなーと改めて思いました。ロイド=ウェバーのは、ちょっと威風堂々でハリウッドっぽいものな。もちろんあちらも好きですけど。

誰もが言うが、音楽や香りは記憶を呼び覚ます…おそらく、無意識をつかさどる原始の脳から。
いろんなことを思い出しそれでも涙、城田真彩の演技と歌にもまた涙、の「ファントム」でした。