静かなる情熱 エミリ・ディキンスン | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。

いやまあ、本当に辛かった。
お洋服やインテリアはとても可愛くて、時代考証無視ならこれば赤毛のアンか?と思いそう(カナダではなく合衆国の話です)。若き日のエミリが親友と語らう庭園は花が咲き乱れ、ドレスの色と襞と日傘が美しく、いや、少し作り過ぎでしょうとも思う。それほど甘やかで懐かしいような風景。
 
なのですが、そこで繰り広げられるのは痛みばかりのエミリの人生で、その対比が人生の残酷さをじわじわと語る。いくら背景が(インスタが)綺麗だろうとも、良き人生とは関係ないのだと。
 
エミリは友達にするにはなかなか骨のおれる人だったように思う。でも彼女にとっての幸せはあんなに献身的な妹をもてたこと。美しくて犠牲心に富む彼女は、姉の詩をまとめ、出版し、その後どうしたのだろう?
 
人を強いことばで傷つけ、だれよりも自分が傷ついていたエミリ。
そのことばはあまりに真実で峻険で淋しくて美しくて、平凡な私たちを遠ざけてしまう。
誰よりも、世界から返事の手紙が欲しかったエミリ。
だけど私は彼女に、こちらがわにおいでとは言えない。彼女は孤独を運命付けられた天才であり、それから逃れることは彼女の魂の死であると思うから。
映画の出来不出来の前に、私は映画を通じて彼女を知れたことに感謝したい。決して静かではない、情熱の持ち主エミリに。