雑話110「印象派理論の生みの親・・・ボードレール」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話
2012-01-15 15:00:00

雑話110「印象派理論の生みの親・・・ボードレール」

テーマ:絵画

いくつかの近代芸術の誕生の陰には、頭脳となる作家の存在があり、彼らとの交流を通じて新しい芸術理論が発展していきました。


印象主義もその一つですが、その頭脳となったのはなんと退廃的な詩集”悪の華”の著者として有名なフランスの詩人、シャルル・ボードレールでした。


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ボードレールの肖像、1861年頃

実は、ボードレールは美術批評家として文壇にデビューしていたくらいで、ドラクロアやクールベとも親交がありました。


その彼は印象派の名前が生まれる何年も前に、エッセイ「現代生活の画家」を著し、印象主義理論とも呼べるものの後ろ盾を作っていたのです。


「現代生活の画家」の中で、ボードレールは現代生活こそ現代の芸術家にとっての唯一の価値ある主題であり、また視覚芸術はその詩情を伝える中心的な媒体でありうると述べています。


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コンスタンタン・ギース「公園での出会い」1860年頃

※ボードレールが自分の理論を代表させた作家

ギースの素早いスケッチ風の様式は、素朴な観察者の気まぐれな情熱、われを忘れるような熱中、現代的な効率性の理想を兼ね備えていると主張しました

彼はさらに、すばやい制作と形式にとらわれないペインタリーな技法が、進歩的な効率性と私的な余暇を表現していると指摘しています。


この「現代生活の画家」の考えを具体化させたのが、ボードレールの数年来の友人であったマネでした。


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エドゥアール・マネ「テュイルリー公園の音楽会」1862年

※都会の現代人の集まりとして描かれました

ボードレールは1860年代初頭から中頃にかけて、恐らくマネに最大の知的影響を与えた人物でした。


マネはその作品制作において、現代的なヴィジョンにふさわしい的確で迅速簡潔な様式を用いていますが、それによって「現代生活の画家」で述べられた都会の現代人の移ろいゆく視線と主題がすばやく要約されて表現されています。


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「テュイルリー公園の音楽会」の左端に描かれたマネ自身

※画中と絵の外の半分ずつ身をおいているのは、世界の一部でありながら客観的にそこから距離をとった観察者として自分を位置づけていることを表しています

このようなマネの絵画は、その筆触や切れの良い並置などの技巧を通して、はっきりと芸術家の活動を誇示しており、芸術家の存在はしばしば主題の存在をも翳らせてしまいました。


マネはボードレールの考えを実践した結果、「現実的なものを作り出すには、芸術的な想像力こそが大切である」ことを証明することとなったのです。


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「テュイルリー公園の音楽会」の前景に描かれた子供たち

※上記のギースの画風を油絵に翻訳したようなスケッチ的な手法で描かれています

こうして、印象主義誕生に不可欠な要素である、自然に対する忠実さと主観的な自己に対する忠実さという二重性が導き出され、マネの芸術は印象主義の強力な第一幕となったのです。