第一章 原敬暗殺の謎
「ペルソナ」第一章は、三島由紀夫の祖父・平岡定太郎(内務官僚)~父・平岡梓(農商務省)~三島由紀夫(大蔵省)と三代続いた東京帝国大学出身の高級官僚一家の軌跡でもある。
冒頭から、何故、「原敬暗殺の謎」なのか戸惑うかもしれない。
ここでは、三島由紀夫のルーツでもある祖父・平岡定太郎の評伝を中心にしている。
教育熱心な農民だった定太郎の両親により、兵庫県より上京して帝国大学に遊学。内務官僚として、当時の総理大臣・原敬の懐刀となり暗躍する。
話はだんだん、平岡定太郎を通じて原敬自身の軌跡に移って行く。
まだ確固たる権力組織というものが確立していない明治時代後期の政治構造を、権力を創り出す側から描いている。
この辺の事情は、歴史上ではブラックホールのように空洞が多く意外と語られていなかった時代である。私自身が興味を持っている時代でもあるので大変面白かった。
著者は、厖大な資料を基に、実によく調べている。
時代は三島が自決した時代から、江戸時代まで遡り、三島由紀夫個人を離れて、日本の官僚体制の歴史にまで深く踏み込んでいるので、第一章だけでも立派な作品に成りうる。
登場人物は多岐に亘り、政財界の大立者はもとより、文学、芸能界まで、近代日本の歴史全般を網羅している。
出色のところでは、異色作家・夢野久作の父親や先ごろ話題となった杉田かおるの元夫・鮎川氏の祖父・鮎川義介。「和泉式部日記」(岩波文庫)の校訂でおなじみの清水文雄氏(三島の学習院時代の恩師)。そして、現皇后の旧姓・正田美智子さま(美智子さまは三島由紀夫の結婚候補に挙げられていた)など。
想像もしない人物が登場したり、意外な情報が載っていたりする。
そして、著者自身も自らの足で、三島ゆかりの地を訪ね、生き証人を求めて海外にまで取材を重ねている姿には脱帽する。
本書では、森鴎外と原敬の遺書が酷似している点などにも触れているが、
<文学は文学史、政治は政治史としてのみ記述されるから、こうした同時代の符合が見落とされる。>とある。
とにかく、この一冊は三島由紀夫の総括的な評伝であると同時に近代日本の政治経済、歴史、文学の情報の宝庫である。
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