架空の投資話を持ちかけて7人から多額の現金をだまし取ったとして、詐欺罪(刑法246条)、出資法及び金融商品取引法違反の罪に問われた野村証券岡山支店の元社員への判決公判が岡山地方裁判所であった。(岡山地裁令和6.6.28)

 

判決は、懲役3年6か月の実刑とした。

この判決で注目すべきことは、本件における故意と共謀についてである。

 

まず、被告人は、顧客に元利金を返済できない理由について、7月7日、Aから、過度な入出金によりセキュリティロックがかかったという説明を受け、

 

翌8日には、顧客に対する説明案を作成し、これに対するAからの修正案に基づいて、顧客に対し、口座のセキュリティロックがかかったので返済できない旨説明した。

 

ところが、7月末頃には、被告人は、Aから、返済が滞っている理由はセキュリティロックではなく、金融庁からインサイダー取引の疑いを持たれたためによる口座凍結である旨、以前と異なる説明を受け、顧客に対しても説明ぶりを変更した。

 

Aが言う口座凍結の内容は、入金や先物取引、オプション取引はできるものの、出金することだけはできないという、あまりに都合が良すぎ、明らかに不合理なものであった。

 

しかも、被告人は、ある顧客にはインサイダー取引の疑いで口座が凍結されたと説明しつつ、別の顧客にはAの指示を受けて、以前と同容に、セキュリティロックによって返済できない旨説明するなど、顧客によって説明ぶりを変えていた。

 

返済できない理由が相手によって変わることはあり得ないから、被告人はAとともに説明ぶりを場当たり的に変えたものといわざるを得ない。

 

そうすると、セキュリティロックもインサイダー取引による口座凍結という理由もいずれも場当たり的で不自然、不合理なものであって、

 

長年Oや金融機関で勤務した経験があり、金融や証券取引に関する知識が豊富であった被告人としては、これが虚偽である疑いをもってしかるべきであったといえるから、

 

遅くとも9月13日頃の時点では、被告人は、Aが返済できない理由として言っていたセキュリティロックも口座凍結も、いずれも虚偽であると認識していたと強く推認できる。

 

以上によれば、被告人は、遅くとも9月8日から同月13日の時点で、過去の投資運用事業が収益を上げられておらず、

 

今後も同様に投資運用事業による収益を上げられる見込みも、Aの個人資産から元利金を返済できる見込みもないことを認識していたと推認できる。

 

そうすると、本件各詐欺事件の各犯行時における、被告人は、顧客から預託を受けた投資金が返済できないであろうことを認識していたにもかかわらず、それでも構わないとあえて顧客に対し、確実に元利金が返済される旨述べ投資勧誘を行い、現金の交付を受けた、

 

「すなわち被告人には詐欺の未必の故意ひいてはAとの共謀があったと推認される。」として、故意と共謀を認定した。

 

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