詩人である萩原朔太郎の娘の小説を原作とした映画脚本の内容を改変することが著作者人格権侵害にあたるとして、脚本家が慰謝料などを求めた訴訟の判決が大阪地方裁判所であった。(大阪地裁令和6.5.30)

 

判決は、著作者人格権(同一性保持権)侵害を認めた。

この判決で注目すべきことは、本件脚本の改変が同一性保持権侵害にあたるかである。

 

まず、「同一性保持権を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいう。」とした。

 

そのうえで、本件変更に係る部分は、主人公と女主人公の愛憎と主人公がDVを行い、同棲生活が破綻に至るまでを描く第10稿の基本的な思想、感情の創作的表現を維持しつつ、

 

第12稿の133シーン中15シーンにわたり第10稿の台詞等の内容が改変されており、単純な字句の修正や歴史的事実の是正にとどまらず、

 

主人公が戦争詩を書く理由は主な登場人物の性格・心理等についての被告の解釈や描写を付加するなどしたものであることが認められる。

 

すなわち、本件変更において、第12稿のシーン17、43、57、62、73、76、101、114、119への変更は主人公または女主人公の性格や心理の描写を第10稿から変容させるもの、

 

同シーン64、65、67への変更は主人公の戦争への向き合い方や戦争詩を書く理由に関する被告の解釈を反映し第10稿に付加するもの、

 

同シーン75、117への変更は主人公の女主人公に対するDVとそれに対する他者の反応の描写を第10稿に付加しまたは変容させるもの、

 

同シーン96への変更は主人公が戦争詩を書く理由や主人公と女主人公との関係性について被告の解釈を反映させて第10稿を変容させるものと認められる。

 

そうすると、本件変更は第10稿に実質的な変更を加えるものであり、本件変更には原告の同意を要すると解されるところ、被告が本件変更に関して原告の同意を得ていないことは明らかであって、

 

「被告による本件変更は、第10稿に関する原告の意に反する改変にあたり、原告の同一性保持権を侵害するものと認められる。」として、同一性保持権侵害を認めた。

 

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