歯科医院の名称に使用された標章が登録商標と類似し商標権侵害にあたるとして、損害賠償などを求めた訴訟の判決が大阪地方裁判所であった。(大阪地裁令和6.4.18)

 

判決は、商標権侵害を否定した。

この判決で注目すべきことは、商標類否の判断基準についてである。

 

まず、商標の類否は、対比される商標が同一または類似の商品または役務に使用された場合に、その商品または役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、

 

「それには、使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品または役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである。」とした。

 

また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては、

 

その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは、原則として許されないが、

 

「商標の構成部分の一部が取引者または需要者に対し、商品または役務の出所識別標識として強く印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などには、

 

商標の構成部分の一部だけを取り出して、他人の商標と比較し、その類否を判断することが許されるものと解される。」とした。

 

そのうえで、被告標章1は、「香椎照葉こどもとママの歯科医院」の同一字体の文字を1の横書きに配して成るものである。

 

このうち、「こどもとママの歯科医院」の部分は、母子の歯科治療の対象としている意味合いを伝えることにすぎないことに加え、

 

同趣旨の商標または歯科治療の対象となる特定の属性を表現した商標は、多くの歯科医院において使用されていることが認められる。

 

そうすると、被告標章1のうち「こどもとママの歯科医院」の部分は、自他役務の識別力が弱いというべきであるから、

 

同部分が、取引者または需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといことはできず、同部分だけを抽出して本件各商標と比較して類否を判断することは相当でない。

 

そこで、本件各商標と被告標章1全体を比較して類否を判断するに、本件各商標と被告標章1の外観は、少なくとも「香椎照葉」の有無という明らかな相違がある。

 

また、本件各商標からは「子供と母親のための歯医者さん」という観念が生じるのに対し、被告標章1からは「香椎照葉にある子供と母親のための歯科医院」と観念が生じる。

 

そして、本件各商標は「コドモトママノハイシャサン」または「ママトコドモノハイシャサン」という称呼が生じるのに対し、被告標章1は「カシイテリハコドモトママノシカイイン」という称呼が生じる。

 

したがって、「本件各商標と被告標章1は、外観、観念及び称呼いずれをみても、明確に相違をしており、取引の実情を考慮しても、需要者がその出所につき誤認混同を生じるおそれがあるとはいえない。」として、商標権侵害を否定した。

 

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