契約終了後に登録商標を使用することが商標権侵害などにあたるとして、損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が知的財産高等裁判所であった。(知財高裁令和6.4.10)

 

判決は、一審判決と同様、商標権侵害を認めた。

この判決で注目すべきことは、本件商標使用許諾契約が有効に成立していたかである。

 

まず、本件商標使用許諾契約書が作成された平成20年10月1日当時、Dは被告の取締役であったから、Dが原告代表者として被告との間で本件商標使用許諾契約を締結する場合は、

 

被告からみて、自社の取締役が第三者のために被告と取引することになるから会社法356条1項2号の利益相反取引に該当する。

 

被告は取締役会設置会社であるから、Dが原告代表者として被告との間で本件商標使用許諾契約を締結しようとするときは、被告の取締役会において、その契約につき重要な事実を開示した上、その承認を受けなければならない(同法365条1項、356条1項2号)。

 

「当該承認を受けることなく契約が締結された場合には、被告は、原告に対し、契約の無効を主張することができるものと解される。」

 

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行う(同法369条1項)。

 

取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。(同条2項)。

 

原告は、本件商標使用許諾契約について、平成20年2月23日午後1時30分、Aの自宅にて開催され、C及びDが出席する被告の取締役会で承認され、後日、取締役会の議事録にB、C及びDが各自押印し、AについてはDが代理で押印した旨主張している。

 

しかし、同日における被告の取締役はB、C、D及びAの4名であり、Dは決議に加わることができないから、決議に加わることができる取締役(3名)の過半数は2名であるところ、

 

原告の主張を前提としても、同取締役会に出席した取締役はCとDの2名であるから、取締役会は、その定足数を満たない。

 

また、後日、原告が主張するような議事録への押印がされたとしても、本来、取締役は個人的な力量や才能に基づき選任されるものであるから、

 

代理人による議決権行使は認められないのみならず、会議を開いて慎重に業務執行について決定することを要求する法の趣旨に照らし、

 

いわゆる持ち回り決議や書面決議は認められないから、当該押印をもって取締役会の承認と認めることはできない。

 

そうすると、本件商標使用許諾契約の締結について、平成20年2月23日の被告の取締役会で承認されたと認めることはできず、他の日時に取締役会の承認があったことを認めるに足りる主張立証はない。

 

したがって、「争点1につき検討するまでもなく、被告は、同契約は無効である旨主張することができるというべきである。」として、本件商標使用許諾契約を無効とした。

 

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