ファイル共有ソフト「ビットトレント」を使用してインターネット上に動画を公開することが著作権侵害にあたるとして、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求めた訴訟の判決が東京地方裁判所であった。(東京地裁令和6.2.26)

 

この判決で注目すべきことは、アンチョーク状態の発信者情報が開示請求の対象になるかである。

 

まず、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された者とする者」は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の開示請求権を有する(法5条1項)。

 

「発信者情報」とは、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」(法2条6号)をいい、

 

「侵害情報」とは、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報」(同条5号)を指す。

 

また、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、「特定発信者情報」と「特定発信者以外の情報」に区別され、

 

「特定発信者情報」とは、「発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの」であり(法5条1項)、

 

同省令において、ログイン時通信等の4つの類型の通信のうち、侵害情報の送信と相当の関連性を有するものとされている(法施行規則5条)。

 

これらの規定に鑑みると、法は、開示請求の対象につき、権利侵害をもたらす通信以外の通信の発信者情報にも拡大しているところ、

 

その外延は、上記のログイン時通信等の4つの類型の通信の発信者情報すなわち「特定発信者情報」に限られるものと解される。

 

そうすると、「特定発信者情報以外の発信者情報」とは、権利侵害をもたらす通信の発信者の特定に資する情報を意味するものと解される。

 

そのうえで、本件調査におけるUNCHOKE通信は、本件動画に係るファイル提供者リストに記録されたユーザーに接続した本件検出システムに対し、

 

当該ユーザーからのファイル(ピース)のダウンロード(アップロード)が可能であることを通知するものに過ぎず、ファイル(ピース)のダウンロード(アップロード)を伴わない。

 

このため、仮に、本件発信者が、本件動画に係るファイルのダウンロードすなわち「情報を記録」することにより(著作権法2条1項9号の5イ)、

 

または、当該ファイルの情報が記録された端末を公衆の用に供されている電気通信回線に「接続」することにより(同号ロ)、送信可能化を完了していたとしても、

 

UNCHOKE通信それ自体は、原告の本件動画に係る公衆送信権(送信侵害可能化権)侵害をもたらす情報ではない。

 

そうである以上、「UNCHOKE通信に係る本件発信者情報は、『特定発信者情報以外の情報』ではなく、また、『特定発信者情報』にもあたらない。」として、発信者情報開示請求の対象にならないとした。

 

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