虚偽の著作権侵害申告によりユーチューブ動画を削除することが不正競争防止法違反にあたるとして、ユーチューバーが損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地方裁判所であった。(東京地裁令和6.2.26)

 

判決は、不正競争防止法違反(2条1項21号・信用毀損行為)を認めた。

この判決で注目すべきことは、本件において人権侵害による損害賠償請求権も認められるかである。

 

まず、原告は、本件において虚偽の事実の告知等されたことによって、経済的損害につき不正競争防止法2条1項21号に基づく損害賠償請求権が発生するほか、

 

併せて人格的利益を侵害するものとして、別途不法行為に基づく損害賠償請求が発生する旨主張する。

 

そこで、検討するに、人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、

 

「生命または身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉感情、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ権その他憲法13条の注意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利利益を総称するもの」であるから、

 

人格的利益の侵害の主張のみでは、特定の被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。

 

仮に、原告主張に係る人格的利益が、上記判例を引用する限度で特定されているものと善解したとしても、

 

平成17年判決は、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、

 

公立図書館において閲覧に供された図書の著作者の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定するものであり、

 

その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱によって蔵書を廃棄した場合に限定されるものである。

 

そうすると、「私立図書館その他の私企業における場合は、明らかにその射程外というべきものであるから、平成17年判決は、私企業であるYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件には、適切なものではない。」とした。

 

また、令和4年判決は、人格的利益に関わるものと説示しつつも、投稿者の営業活動を妨害するという側面を踏まえたものであるから、精神的価値という法的に限定して法的利益性が主張されている本件では、必ずしも適切ではない。

 

のみならず、平成17年判決が、上記のとおり、伝達の利益を法的な利益として肯定する場合を、公立図書館の職員による極めて不公平な取扱等の場合に制限している趣旨に照らしても、

 

「憲法で保障されている表現の自由から、直ちにYouTubeにおける投稿動画に係る伝達の利益を肯定するのは相当ではない。」として、人権侵害については否定した。

 

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