暴力団員らによる特殊詐欺の被害者3人が、所属組織の上部団体である指定暴力団山口組のトップに、暴力団対策法に基づく損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地方裁判所であった。(東京地裁令和5.12.5)

 

判決は、暴力団トップに損害賠償責任を認めた。

この判決で注目すべきことは、暴対法の使用者責任(31条の2)についてである。

 

まず、暴対法31条の2は、指定暴力団員の代表者等は、当該指定暴力団の暴力団員が「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持に、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、または当該資金を得るために必要な地位を得る行為」、

 

すなわち「威力利用資金獲得行為」を行うについて、他人の生命、身体または財産を侵害したときは、一定の場合を除き、これによって生じた損害を賠償する責任を負う旨定めており、

 

民放715条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生ずる被害者側の主張立証責任の負担の軽減を図ることを趣旨とする規定であるか解される。

 

そして、暴対法31条の2は、「威力資金獲得行為」の定義につき「当該指定暴力団の威力を利用して」と規定し、

 

同法9条が指定暴力団員による暴力的要求行為の禁止について相手方に「威力を示して」要求することを要件としているのと異なり、「威力を利用」するとの文言を用いており、相手方に「威力を示」すことを要件としていないことに照らせば、

 

ここにいう「当該指定暴力団の威力を利用して」とは、指定暴力団が、当該指定暴力団に所属していることにより、資金獲得活動を効果的に行うための影響力または便益を利用することをいい、

 

「当該指定暴力団の指定暴力団員としての地位を資金獲得活動とが結び付いている一切の場合をいう趣旨であって、必ずしも当該暴力団の威力が被害者に対して直接示されることを要しないものと解するのが相当である。」とした。

 

そのうえで、Dは、本件特殊詐欺事件を行うにあたり、その下位にあたるF、G及びHを東京事務所に呼び、指示をしたり、報告を受けたり、詐欺金等を受領していたところ、

 

F、G及びHはいずれも、Dが暴力団員であることを認識しており、そのために恐怖を抱いていたと認められるから、Dは、暴力団の威力を利用して、受け子らの統制し、本件特殊詐欺事件を行っていたと認められる。

 

以上によれば、本件各不法行為は、指定暴力団であるF傘下の5の構成員であったDが、当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得活動を効果的に行うための影響力または便益を利用して行われていたものと認められ、

 

当該指定暴力団が指定暴力団員としての地位と資金獲得行為が密接に結びついているものといえるから、

 

「『当該指定暴力団の威力を利用して』行われたものであって、暴対法31条の2の『威力資金獲得活動』を行うに付いてされたものと認められる。」として、暴対法の使用者責任を認めた。

 

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