出版許諾契約による書籍の出版を拒否することが債務不履行にあたるとして、出版社が損害賠償などを求めた訴訟(反訴)への控訴審判決が知的財産高等裁判所であった。(知財高裁令和6.1.10)

 

判決は、債務不履行による損害賠償請求権を否定したが、この判決で注目すべきことは、出版社に商法512条による報酬請求権が認められるかである。

 

まず、被告は図書出版及び販売並びにこれらに附帯する一切の業務等を目的とする株式会社であり、「商人」にあたる。

 

そして、被告は、本件書籍の出版のための作業として、平成18年頃までに、Aから聴取した内容の録音を外部業者に委託して反訳し、字句の修正を行い、体裁を整えた完成版として、同日送付した本件書籍の原稿に基づき、同年12月18日頃には校正確認用の版下データを作成し、

 

令和2年10月26日頃までの間、原告の意見を聴きながら校正作業を行い、表紙その他の装幀を含め、印刷をすれば出版可能な状態にまで体裁を備えた最終的な印刷原稿を作成した。

 

これらの作業は、被告の営業の範囲内におけるものであり、また、客観的にみて、当時、その著作物の複製及び譲渡等を出版社である被告に許諾することを前提に、

 

自らの著作物を広く公衆に提供する意思を有していたと認められるA及び原告のためにする意思をもって行われたものである。

 

そうすると、「被告が行った上記作業は、商法512条の『商人がその営業の範囲内において他人のために』した行為であると認められるから、被告は、原告に対し、相当額の報酬を請求することができる。」とした。

 

そのうえで、被告は、本件書籍の最終稿の作成に至るまでの間に、Aから聴取した内容の録音の反訳費用(テープに起こし・原稿入力費)として、平成17年12月に外部業者に対し、26万円を支払ったこと、

 

令和元年7月19日以降、令和2年10月末頃までに最終的な印刷原稿を完成するまでの間、版下データの作成の外部業者への依頼費用(DPT組版作業)として26万2900円を要したこと、校正作業を外部業者への依頼費用(校正費用)として13万7445円を要したこと、

 

装幀(表紙等のデザイン)作業の外部業者への依頼費用として12万1000円を要したことがそれぞれ認められ(いずれも税込み)、これらの合計額は78万1345円である。

 

そうすると、「被告は、原告に対し、少なくとも同額の報酬請求権を有すると認めることが相当である。」として、出版社の報酬請求権を認めた。

 

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