熱中症の応急措置に用いられる商品に使用された標章が商標権侵害にあたるとして、損害賠償などを求めた訴訟の判決が大阪地方裁判所であった。(大阪地裁令和5.12.19)

 

判決は、商標権侵害を否定した。

この判決で注目すべきことは、「熱中対策応急キット」は普通名称かである。

 

まず、本件商標が、その指定商品について商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみならなる商標であるというためには、

 

本件査定日(令和4年2月28日)の時点において、当該商標が当該商品との関係で商品の用途を表示記述するものとして取引に際し必要な表示であり、

 

当該商標の取引者、需要者において当該商品に使用された場合に、将来を含め、商品の用途を表示したものとして一般に認識されているものであれば足りる。

 

そして、「当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の用途を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の実情を考慮して判断すべきである。」とした。

 

本件商標は、「熱中対策応急キット」の文字を標準文字で表してなり、本件商標を構成する文字は、同じ大きさ及び書体で、等間隔かつ横一列にまとまりのある態様で並べられている。

 

そうすると、本件商標は、取引者及び需要者に、これを構成する文字の全体をもって、一連一体の語を表すものとして理解されると考えられる。

 

本件商標中の「熱中」、「対策」、「応急」及び「キット」の4つの語は、それぞれ、「物事に心を集中すること。夢中になってすること。また、熱烈に思うこと。」、

 

「相手の態度や事件の状況に応じてとる方策。」、「急場のまにあわせ。」、「組立て模型などの部品一式。工具・用具一式。」といった意味を一般に有するところ(いずれも広辞苑第7版、平成30年1月発行)、これらの語を字義どおり捉えると、

 

熱中症の対策または応急措置に用いる物品ないしそれらをバッグに入れて一まとめにしたものといった意味合いが直ちに導かれるものではない。

 

もっとも、「熱中」の語は、「熱中症」との3文字の語のうち、「症状」を示すものと解される「症」の文字を除く2文字と一致しており、「熱中症」との語の一部を示すものとしてみても不自然とはいえない。

 

取引の実情をみると、「熱中対策応急キット」との標章が付された商品(本件商標に係る商品の区分ごとに本件指定商品と同一または類似の商品を含んでいるもの)は、

 

平成24年頃から本件査定日(令和4年2月28日)までに、ミドリ安全を中心とする多数の法人(被告も含む)において、熱中症に応急的に対応するための物品一式として広告販売されている状況が認められる。

 

以上を総合すると、「熱中対策」の語は、本件査定日の時点で、「熱中症対策」との意味でも一般的に理解され、

 

「熱中症対策応急キット」の語は、熱中症の対策または応急処置を用いる物品一式ないしそのような物品を含む商品との意味を有することが一般に認識されていたことが認められる。

 

そして、本件指定商品は、熱中症の対策または応急処置に用いる物品ないしそれらを収納するポーチ等(それらを全部または一部を組み合わせたものを含む。)の商品に含まれると認められるところ、

 

標準文字で表される「熱中対策応急キット」の本件商標がかかる商品に使用された場合、当該商品の取引者または需要者によって、当該商品の用途を示すものとして一般に認識される状態になったといえる。

 

そうすると、「『熱中対策応急キット』との本件商標は、指定商品に使用された場合、商品の用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。」として、普通名称にあたるとした。

 

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