葬祭会館に使用された標章が登録商標と類似し商標権侵害にあたるとして、葬儀会社が商標の使用差止めを求めた訴訟の判決が大阪地方裁判所であった。(大阪地裁令和5.11.30)

 

判決は、商標権侵害を認めた。

この判決で注目すべきことは、本件において商標の先使用権(商標法32条1項)が成立するかである。

 

まず、被告は、葬儀会社の需要者は、主として葬儀会館の周辺地域に居住する者であるとした上で、

 

一般に、葬儀会社の商圏は、葬儀会館を中心として半径2km程度といわれているから、当該地域を周知性が認められる地理的範囲として、被告標章に係る先使用権の有無を判断すべきである旨主張する。

 

この点、葬儀はその施行の必要が予測不可能である一方で、一旦不幸があれば直ちに施行が求められるという性質を有することを踏まえて、

 

主として葬儀会館の周辺地域に居住する者が需要者として想定されるということについては、一定の合理性が認められる。

 

しかしながら、ある標章につき先使用権が認めれた場合、未登録でありながら、登録商標が有する禁止権の効力を排除して当該標章の使用が許されることになり、商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことになる。

 

かかる重大な制約に鑑みると、法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても、

 

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するウェブサイトにおける「業種別開業ガイド」の「葬祭業」のページにおいて「斎場事業は、商圏範囲が2キロメートル、人口3万人に1会館を1つの目安とする。」と記載されていることをもって、

 

「葬儀会社の商圏が半径2km程度であるとして、被告標章につき本件会館を中心として半径2kmの範囲で周知されていれば足りると判断することは相当ではない。」とした。

 

前記認定事実の判断によれば、本件会館における平成28年から令和2年までの葬儀の全施行件数(567件)のうち、

 

葬儀申込者の居住地が半径2km圏内に存在する件数が約82%(464件)を占めているが、上記圏外の件数が2割弱も存在すること、

 

みと大脇が近接地区のみならず大阪地域ないし東大阪・八尾の相当程度広い地域を対象として宣伝広告活動を行っていたことを考慮すると、みと大脇が被告標章と同一の「久宝殿」との標章をその業務(葬儀業)に使用していた地理的範囲は、

 

「おおむね東大阪市及び八尾市の全域(本件会館から最大で約10km圏内に相当する。)と考えられるから、先使用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討されるべきである。」とした。

 

そのうえで、仮に、東大阪市及び八尾市全域という地理的範囲における先使用権の成立が許容され得ることを前提として、

 

本件会館が、平成12年から「メモリアルホール久宝殿」との名称で約20年にわたり葬儀会館として使用されてきたこと、「久宝殿」との標章(被告標章)が一定程度の識別力を有することを考慮しても、

 

「被告標章は、本件商標の登録出願(令和2年9月17日出願)の際、当該範囲において、現に需要者の間に広く認識されていたとは認められない。」として、商標の先使用権の成立を否定した。

 

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