積水ハウスが地面師グループに架空取引で土地購入代金をだまし取られた事件を巡り、経営判断に誤りがあったなどとして、株主が社長らに損害賠償を求めた株主代表訴訟の判決が大阪地方裁判所であった。(大阪地裁令和4.5.20)
判決は、社長らの責任を否定した。
この判決で注目すべきことは、意思決定に関与した取締役といった役員の善管注意義務・忠実義務に関してである。
まず、本件では、代表取締役であった被告Aによる本件稟議書の決裁を経て、補助参加人による本件不動産の購入が決定され、その結果、補助参加人に多額の損害が生じたものである。
しかるところ、取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、
「取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、
取締役による当時の判断が取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはないと解され、
当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、
かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものでない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことなないというべきである。」とした。
そして、会社によっては、その組織の規模等のために、各種の業務を種々の部署で分担し、その部署に知見や経験を集積して、権限も適宜委譲することによって、専門的知見を要する業務も含めて広汎な各種業務に効率的に対応することを可能とするものであり、
当該会社がこのような大規模で分業された結果を信頼してその経営上の判断をすることは、取締役に求められる役割という観点からみても、合理的なものということができる。
そうすると、「当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、
下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、
当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。」とした。
そのうえで、本件稟議書を決裁した被告Aの判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものであり、かつ、かかる時事等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものではなかったのであるから、
「経営判断として同被告に許された裁量の範囲に止まるものであったということができ、被告Aが、本件稟議書を決裁したことを理由に善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことはできない。」とした。
当ブログは「にほんブログ村」に参加しております。
よかったらこちらをクリック願います。