救急業務に求められているのは、傷病者を適切な医療機関に迅速に搬送すること、という理解 | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

「平成21年の消防法の一部改正で第35条の5以下の改正が行われた際に、消防組織法、消防法第1条の条文も改正され、『傷病者の搬送を適切に行うこと」という文言が加えられ、ここに初めて、消防の本来業務の一つとして救急業務が明文化された。消防組織の中で、救急業務の立ち位置が明確化されたのは、実に平成21年のことであるkぽとに注意しておかなければならない。消防法第2条第9項は、あくまで、消防の業務内容の一つに救急業務があるkぽとを明示したにすぎないのである。(中略)したがって、救急業務を考える上での基本的な視座として、消防法制上、救急業務に求められているのは、傷病者を適切な医療機関に迅速に搬送すること、とおいうことになる。」

そう、橋本雄太郎氏は考えている。

そのうえで、「救急業務に関して今後、各救急隊員(=消防職員)と各消防本部に求められているもの、取り組むべき課題について、危機管理としての役割を持つ法律学の視点から、これまでの紛争事案・訴訟事案、把握し得たヒヤリハット事案等を踏まえて、無用な紛争を起こさせない、紛争予防法学的な視点から考察する。」として、「救急隊長研修」と「指令室員教育」の必要性とその内容に言及されている。

消防救急救命士の指導者たらんと日頃研鑽を積まれている国士舘大学大学院の院生にも、こういう認識でおられる現職の法律学専門の大学教授がおられるということは伝達しておいた方がいいだろう。

様々な紛争事案を見てきておられるからこその具体的な警鐘である。

私も自治省退官後、弁護士になって間もなく、自治省の大先輩堀家弁護士の下で「地方自治損害賠償判例実例集」(ギョウセイ)の編纂業務の一部を担ったことがあるから、自治体が無用の法的紛争に巻き込まれるような事態は極力避けなければならない、とは思っているが、一定の訴訟リスク、紛争リスクはどうしても避けられないのだから、むしろ必要な法的整備を図り、場合によっては地方公共団体の損害賠償保険制度を充実させた方がいいのではないか、と考えている。

総務省でどういう検討を進めているのか分からないが、橋本雄太郎氏が憂慮される程度に訴訟リスク、紛争リスクが高くなっているのであれば、一自治体で巨額の損害賠償事案に対処するのはもはや無理と言わざるを得ないのではなかろうか。

まして、救急業務の本体は適切な医療機関への迅速な搬送だ、などと言っても、実際には救急車の出動要請があってから救急車が現場に到着するまでには6分以上要するという現状で、しかも「適切な医療機関」への搬送が行われるのは相当時間が経過しているか、そもそも適切な医療機関の選定や搬送が実際には著しく困難だという諸事情を勘案すると、橋本氏が認識している以上に病院前の救急救命措置の実施が救急救命士には求められている、ということになる。

自治体の損害賠償責任回避のための法理論や法的備えの必要ばかり説くのは、いささか救急医療現場のニーズには沿ぐわないのではないかしら、と思うところがある。
救急救命士の養成に当たられている教育関係者や救急医療の現場を担われている医療関係者の皆さんのご意見をお伺いしたいところである。

立場が違うとまた違った見方が出来るはずだ。