選挙期間中の「名誉棄損メルマガ削除要求」の実効性をどう確保するか | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

弁護士の職業的本能だろうか、菅氏の名誉棄損メルマガ削除請求・慰謝料請求訴訟の報道を見てムラムラというかワクワクというか、血が沸き立つのを感じる。

選挙期間中の名誉棄損やインターネットを通じての様々な選挙妨害に法的にどのように対処するのがベストなのか、ということを弁護士選挙研究会や新しい選挙制度研究会で検討し始めているから、菅氏が提起した訴訟がどう決着するか注目している。

菅氏は自らのブログで、安倍総理の名誉棄損メルマガを参議院選挙の期間中に削除することを求めて訴訟を提起したと述べている。
本当かしら、と思って半信半疑で新聞記事を探しているが、菅氏が具体的にどういう法的手続きを取ったのかがまだよく分からない。

7月21日の投票まで5日間しかないが、菅氏が本気で参議院選挙期間中にメルマガの削除を求めるとしたら、メルマガ削除の仮処分申請をしたということになる。
これは普通の仮処分とは異なって、保全処分という簡便な手続きの中で名誉棄損メルマガ削除という結果を結論を出そうとするものだ。
満足的仮処分とか断行仮処分と言われる類型の特別の仮処分である。

正式の裁判の結論が出る前に、正式の裁判で得られる結果を得ようとするものだから、ハードルは極めて高い。
少なくとも名誉棄損の疎明がほぼ完璧に尽くされていなければならない。
勿論、請求者側の主張も相手側の反論を許さない程度に周到で説得的でなければならない。
さらには、正式の裁判を待たないで直ちに裁判所の決定が必要だと判断される程度の緊急性や必要性があることが必要である。

菅氏は参議院選挙の立候補者ではないから、多分満足的仮処分、断行の仮処分を発するほどの緊急性や必要性は認められないとは思うが、しかし考えれば考えるほどこの訴訟は面白い。

菅氏が言うように、本当に参議院選挙の期間中に名誉棄損メルマガの削除をさせるのだったらこの満足的仮処分、断行仮処分の申請をしなければならない。
この種の仮処分の申請や応接にどの程度各陣営が慣れているかが見物である。
この種の仮処分申請に対して裁判所がどのような備えをしているかが見物である。

弁護士としては血の気が多い方だった私としては、血沸き肉躍る思いでこの訴訟の推移を見守っている。
弁護士の立場から言えば、皆、それぞれに自分に与えられた武器を最大限駆使して存分に戦えばいい、ということになる。

土曜、日曜は裁判所も休むから、決定を出すのは金曜日の午前中ということになる。
事実上今日、明日の2日間の攻防で仮処分が出るかどうかが決まるということだ。
もっとも、満足的仮処分、断行的仮処分の場合は相手方から言い分を聞くという審尋手続が必要で、通常は数回は審尋手続を経ることになるから、21日の投票日までに仮処分の決定を得ることは事実上不可能だ。
菅氏は、参議院選挙期間中にメルマガを削除するよう要求したと述べているが、これが本当かどうか、やはり知りたいところだ。

なお、私は、菅氏のケースについては、こういう類の仮処分申請は選ばない。
簡単に却下されたのでは何のために法的手続きを取ったのか、ということになるからだ。

しかし、選挙期間中に名誉棄損の発言やインターネットでの発信があった時にどういう法的手続きを取るのがいいのかはよく研究しておく必要がある。
政治的には菅氏のやることはかなり拙劣だと思うが、新しい選挙法務を確立していくうえでは菅氏のような法的手続きで堂々と戦おうとする政治家は貴重な存在である。
明日弁護士選挙研究会を開催することになっているが、また新しい研究材料が出てきた。

実に面白い展開だ。