「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
憲法99条にそう書かれている。
だから、内閣総理大臣が憲法改正を唱えるのは憲法尊重義務に違反する、という議論がある。
伊藤塾の塾長伊藤真弁護士は、立憲主義の立場からそう主張されている。
これに対し慶応大学法学部教授の小林節氏は、憲法には憲法改正条項があるのだから、憲法制度の不具合が明らかになったときに憲法改正の提案をするのは当然のことであり、憲法尊重義務には抵触しない、と主張されている。
私の立場は、後者である。
日本の現在の統治システムには様々な欠陥や法の不備があることが明らかになっている。
一般の国民にはどの辺りに欠陥があるのか、良く見えないことが多い。
実際に国政の運営に携わった者しか分からない欠陥は、まさにその掌にあたった者がその是正を提案するのが筋であり、また責任ではないか、というのが、私の立論の根拠である。
衆議院と参議院のねじれによって、日銀総裁等の国会同意人事がいつまでも決まらない、予算関連の法律が成立しないので予算が可決されても現実には執行されない、国の予算は成立しても地方税法等の必要な改正が実現しないために地方自治体の予算が組めなくなる、などという事態は現在の日本の憲法システムが内包している欠陥である。
小渕総理が病で倒れたときに現実にどういう手続を取ったのか分からないが、内閣総理大臣が不慮の事故で倒れたときの閣議の招集や国会の召集はどうしたらいいのか、といったことは、本来憲法に明記しておくべき事項であろう。
阪神淡路大震災の時には兵庫県や神戸市の機能が麻痺したが、首都直下型地震や戦争等の非常事態に遭遇したときに、国全体の機能が麻痺しないか、ということも考えておかなければならない。
現在の憲法には、こうした非常事態の際にどうしたらいいのか、という定めがない。
こういう憲法の欠陥や不備を速やかに直せるようにしたい、というのが、私の願いである。
憲法の制定権者はあくまで国民であり、憲法の改正権限も国民にしかない、というのは、国民主権主義の下では当然の原理である。
しかし、同時に憲法改正の発議権は国会にあり、憲法改正の発議の元となる憲法改正の提言をすることは、内閣総理大臣であろうと平の国会議員であろうと自由に出来るはず、というのが、私の考えであるが、さて、皆さんはどうお考えであろうか。