この本のことに言及するのは辛いことである。
世間が皆、間違えていた、ということを認めなければならないからである。
マスコミも政治家も、そして検察官も。
武藤春光、弘中淳一郎両弁護士の編集に係る、『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実ー誤った責任追及の構図ー』(なお、「謝った」、と書いていたが、「誤まった」の誤りです。謝ります。)という書籍のことである。
その帯にこう書いてある。
「いま、なぜ無罪であったかが明らかにされる。
エイズ感染の悲劇を忘れてはならない。
同時に、その責任者として起訴された安部医師が無罪であったことも忘れてはならない。」
「帝京大学医学部教授であった安部英医師は、非加熱濃縮血液凝固因子製剤によるエイズ感染について、業務上過失致死罪で起訴され、第一審判決で無罪判決を受けましたが、第二審の審理中、2005年に88歳で死亡しました。
本書の目的は、第一に、主にこの無罪判決の内容を分かりやすく説明することを通じて、一般読者に安部医師が無罪であることの理由を知って頂くことであります。
そして、それとともに、第二に、悲惨な結果をもたらした災害が発生した場合、十分な根拠もないのに、誰かを責任者として仕立て上げたがる無責任なマスメディアとそれに押されて起訴までする無定見な検察の姿勢を強く批判し、無実なのに刑事被告人とされるという甚だしい人権侵害が二度と繰り返されることのないように、声を大にして訴えることにあります。」
こう、序章の「はじめに」という文章に書いてある。
これが、本書のすべてである。
なんでこんなことになってしまったのか、と思うような事実が書き連ねられている。
公判の途中でご本人が亡くなっており、公訴そのものが取り下げられているが、一審の判決文を読む限りこの事件は無理筋だということが分かる。
こんな間違いをしてはならない。
刑事弁護を齧ってきた一人として、胸が張り裂けるような思いである。
マスメディアが間違えれば、世間が間違え、そして検察が間違える。
大変な人権侵害を犯しかねない。
この書物を一読して、改めて、
「絶対に無実の人を罪に陥れてはならない。
曖昧な構成要件の法律を作って、善良な、普通の市民が罪に問われかねないような事態を、決して作り出してはならない。」
そう、覚悟を新たにしたところである。