拉致問題解決に向けての正念場/テロ支援国家指定解除の政治的・法的意義 | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除については、政治的側面からの検討と法的側面からの検討が必要なようだ。


目下のところマスコミの報道は、その違いを明確に認識していないようで、マスコミ報道を鵜呑みにしていると、混乱しそうだ。


まず、テロ支援国家の指定というものがどういうものであるのかを、明確にしておく必要がある。

今朝の毎日は、次のとおり解説している。


「テロ支援国家

米国務長官が国際テロ年次報告書で指定した国々を一般的にそう呼ぶ。

最新の07年版ではキューバ,イラン、北朝鮮,スーダン、シリアの5カ国を指定。

北朝鮮は88年から継続指定。

87年11月に北朝鮮工作員による大韓航空機爆破事件が起きたことを受けて指定された。

07年年次報告書は、①日航機「よど号」ハイジャック事件(70年)の実行犯をかくまっている②日本人拉致事件について日本政府が明確な説明を求めているーの2点を指摘している。」


すなわち、テロ支援国家は、米国の国務長官が国際テロ年次報告書で指定した国を言うとのことで、何か特にテロ支援国家指定法みたいなものがあるわけではないらしい。

ということは、テロ支援国家の指定というのは事実行為の一種で、あくまで一定の認識の表明であって、それだけで何らかの法的効果が発生するものではないことになる。


さて、本当はどうなんだろうか、と思ってブッシュ大統領の記者会見を検討すると、次のとおりである(毎日の要約による。)


「核申告を6カ国協議で決まった手順の一つとして歓迎する。

北朝鮮は申告でプルトニウム関連活動の説明を行った。

86年以降の核活動の文書を提出、原子炉などへの出入りも認めた。

明日はテレビの前で核施設の冷却塔を爆破する。

6カ国協議の「行動対行動」原則に基づき、米国は対敵国通商法の北朝鮮への適用除外を宣言し、テロ支援国家指定の45日以内の解除を議会に通告する。

今後45日間は北朝鮮にとり重要な期間だ。

6カ国協議の枠内で、総合的で厳格な検証枠組みをつくる。

人権侵害や核実験による国連制裁は継続する。

北朝鮮はすべての核施設を解体し、プルトニウムを放棄し、ウラン濃縮計画や核拡散活動への疑問に検証可能な方法で答えよ。

米国は日本人拉致を絶対に忘れない。

日本と協力し、拉致問題を素早く解決するよう圧力をかけ続ける。

北朝鮮が正しい選択を続ければリビアのように、国際社会との関係を改善できる。

誤った選択には米国と6カ国協議の参加国が対応する。

ウラン濃縮と核拡散活動を完全に開示しなければ、相応の結果が待つ。(以下、略)」


6カ国協議の文書を調べなければ正確なことは言えないが、どうやら、対敵国通商法の除外宣言が直接、当面の法的効果を持つもので、テロ支援国家指定の解除に関する部分は、45日後に発効する条件付意思表示(議会への通告)のようである。


ちなみに、対敵国通商法について毎日は、次のとおり解説している。


「対敵国通商法

戦時における敵対国との外国為替取引や輸出入を規制する権限を大統領に与えている。

米国は50年6月の朝鮮戦争ぼっ発直後、北朝鮮を国家安全保障上の脅威と認定し同法に基づく禁輸措置を導入、現在も継続している。」


ブッシュ大統領は、対敵国通商法に基づいて、北朝鮮を同法の適用対象から除外することを決定し、あわせて議会に対しテロ支援国家指定の解除を通告した、というのが、正確らしい。


マスコミは、これを、単に『米「北挑戦テロ指定」解除』と大見出しを付けて報道するので、いかにもアメリカが既に北朝鮮をテロ支援国家の指定から外したのではないか、という誤解を日本国民に与えることになる。


さらに、マスコミの報道を鵜呑みにすると、テロ支援国家の指定の解除で直ちに法的な枠組みが変わり、あらゆる制裁措置が失効するかのように思われるが、ブッシュ大統領の記者会見に明らかなように(「人権侵害や核実験による国連制裁は継続する」)、他の国際的な枠組みによる制裁措置まで失効させるものではなさそうである。


さらに調べると、テロ支援国家指定の法的意義について、次のような解説を見出した。


「テロ支援国指定

米政府は毎年、輸出管理法の規定に従い、テロ支援国指定リストを議会に提出、指定国に対しては兵器関連の輸出や経済支援が禁じられる。現在、北朝鮮、イラン、シリア、キューバ、スーダンの5カ国を指定している。

指定解除には、大統領が議会に対し、解除発効の少なくとも45日前に解除方針を通告するとともに、①対象国が過去6ヶ月間、テロを支援したことがない②対象国が将来、テロを支援しないと確約しているーの2点を証明しなければならない。解除の発効を防ぐには、議会が阻止法案を通過させる必要がある。(ワシントン時事)」(世界日報)


ここまで調べて、ようやく今回のブッシュ大統領の記者会見の内容が理解できた。


わが国の北朝鮮に対する経済制裁措置については、あくまでわが国独自の判断に基づいて実施する筋合いのものであり、アメリカが北朝鮮を対敵国通商法対象国家から除外し、あるいは北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除したとしても、これに連動してわが国が何らかの措置を講じなければならないものではない。

わが国としては、あくまで拉致被害者の全員救出に向けて独自の制裁を継続すべきである。

拉致問題の解決なくして北朝鮮問題の解決はない、そういう方針で対処すればいい。


そういうことが、分かる。


このように考えてくると、先日の北朝鮮に対するわが国の一部経済制裁解除が、今回のアメリカの決定の引き金になったことが確認できる。


何故、アメリカは、北朝鮮をテロ支援国家として指定していたか。

毎日の前記解説によると、07年年次報告書に、①日航機「よど号」ハイジャック事件の実行犯をかくまっている、②日本人拉致事件について日本政府が明確な説明を求めている、の2点が、北朝鮮をテロ支援国家として継続して指定する理由として上げられていたとのことである。

①、②について、日本政府と北朝鮮の間に一定の合意が成立したから、アメリカとして北朝鮮をテロ支援国家として指定する根拠が希薄になってきた。


これが、アメリカ側の論理であろう。


アメリカの強い示唆に基づくものであることは明らかだが、国家の存亡が懸かる重要な外交案件はこんな風に一つ一つ段階を踏みながら、決定されていくことが改めて分かる。

まるで碁を打っているような感じである。


さて、これを裏返しにすれば、①45日以内によど号実行犯の引渡しがなされない、②45日以内に日本人拉致事件について日本政府が納得できるような説明が得られず、日本政府が引き続いて拉致問題の解決を北朝鮮に対して求めている、ということになれば、アメリカとしては、北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除通告を撤回せざるを得ない、ということになるのではないだろうか。


福田総理は、米国のテロ支援国家指定解除によって、拉致問題解決へのテコが失われるのではとの指摘については、「私はまったくそういう風には考えていない」と述べた、と報道されている(読売)。

私も、基本的に福田総理と同じように考えたい。


マスコミからすると何だ、ということになるかも知れないが、ブッシュ大統領の記者会見を仔細に検討すると、そういうことになる。

拉致被害者家族会の増元事務局長は、「アメリカの完全な裏切り。日本政府はまたも拉致被害者を見捨てた」などと落胆の声を上げているが、私は、まだそういう風に諦めるには早過ぎる、と思っている。


北朝鮮があえて核施設の所在等について虚偽の申告をしていた、拉致問題の解決を故意にサボタージュしていた、紛争国家、地域に対して核の技術を提供し、核廃絶の国際的な流れを積極的に妨害していた、アフガニスタン、イラクのテロ組織に資金援助を継続的に行っていた、等々の事実が出てくれば、アメリカが別の決定を行うことは必至である。


北朝鮮が国際的な約束事を守らない国である、ということが明らかになれば、「将来にわたってテロを支援しない」、などという約束を信じるわけにはいかない、ということになろう。

北朝鮮が国際的な約束を守る国かどうか、その約束を信頼するに値する国であるかどうか、これがまさにこれから問われることになるのである。


8月11日までの45日間の攻防が、拉致問題解決に向けての正念場になる。


こういう大事な時期に、拉致被害者を救出するという本筋を見失い、日本政府との緊密な連携を強調し、拉致被害者に対する変わりない思いを表明しているブッシュ大統領や日本政府を徒に非難し、結果的に、政治的孤立の道を歩むことだけは、避けるべきではないか。

今こそ本腰を入れて取り組み時ではないか。

明日では遅すぎる。

今、出来ることは、全部やらなければならない。

私は、そう思っている。


家族会の皆さんの心労は如何ばかりか、と思う。

しかし、絶対に諦めてはならない。


私たちは、決して拉致被害者の方々を見捨てない。



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