お昼になって、昼食がベッドテーブルに置かれる。
看護師さんがベッドの頭側を起こしてくれるが、その時も胸が痛む。
ただ、確かに胸が痛むが、リカバリールームに移ってきた10時ごろと比較すると痛みが落ち着いているようだ。
もしかしたら、痛みが治まってきたんじゃないかと期待する。
我慢した甲斐が出てきたようだ。

昼食を眺めていると、執刀医の先生がやってきて、「お昼食べられそうですか?半分くらい食べられれば良いですよ。」と言って去って行った。
うーん、半分か。一口さえ食べる気にもならない。
看護師さんは、「痛ければ無理して食べなくて良いですよ」と言ってくれた。

体の各部を動かしてみて、痛みを確かめる。
左手は動かせそう。
右手は動かすと胸の傷が痛むから動かせない。
足は動かしても大丈夫。

それなら、とりあえず何かを口に入れてみようかと考え、看護師さんにベッドのコントローラーを左手に持たせてもらい、ベッドテーブルを顔の近くに寄せてもらう。
そこからはコントローラーをいじりながら、背中の角度を変え、足の角度を変え、あぐらを描く形に足を組み替える。

左手でまずはお茶の入ったコップの蓋を開ける。
コップを手に取る。暖かい。

口元にそっと引き寄せ少し飲んでみる。
暖かいお茶が胃に流れていくのを感じる。
ふぅっと息を吐いて1分ほど休む。

また、コップからお茶を飲む。
今度はさっきより多めに飲む。

自分の体が回復しているという実感が湧いてきて、もっと体を回復させようという気持ちになる。
昼食のメニューはよく分からないが、バナナ一本を半分に切ったのが見える。
よし、バナナを食べよう。それだけ食べれば十分と目標設定した。

左手しか動かせないので、まずはバナナの容器を引き寄せる。
皮が剥いてないので、皮を剥くにはどうすれば良いかと考える。
看護師さんがおしぼりの袋を破ってトレーの上に置いて行ってくれているから、これで手を拭くつもりで少々手を汚しても良いと判断する。(このおしぼりの袋を破ってくれていたのは本当にありがたかった)

一人で手を洗いに行けないから、手を汚すのにも覚悟がいる。
自由に動ける時はいくら手を汚しても良かったが、今は手を汚すと看護師さんに拭いてもらわなければならない。
そこまで考えずに、ナースコールをすれば良いのだろうが、ナースコールをなるべく押したくないと考えていたため、そんなことまで無駄に考えていた。

あとから分かったが、ナースコールは無駄なことでなければ遠慮なく押してよかったようだ。
一般病室に戻ってから相部屋のおじいさんが、やはり自分で動けないためにバンバンナースコールを押しまくってるのを見て、自分が無駄にナースコールを抑制していたと感じた。

さて、バナナの皮を左手だけで剥こうとしたところ少し潰れてしまったが、綺麗に一片を剥くことが出来た。
あとは、トレーに乗っていたスプーンを使ってバナナを輪切りにする。
1センチ幅くらいに輪切りにしてスプーンで口に運ぶ。
舌に乗せると甘くて少し酸味がする。美味しいなと思う。
しみじみと噛み締めて、飲み込む。
もっと食べたいと思い、さらに1センチを食べてみる。
やっぱり美味しい。

バナナをこんなに美味しく感じたことは無かった。
多分、また手術のようなことをしなければ同じくらい美味しく感じることもないのではないか、などと考える。
ここで、お茶を飲んで一息つく。

少し休もうかとも考えたが、やはりお腹は減っていたようで、バナナを早く食べたいと思って残りも少しずつ輪切りにしながらスプーンで食べる。
最後にお茶を飲んで、お昼ご飯は終了。

美味しそうなネギの酢味噌和えらしきものがお皿に載っていたが、そこまでは食べる元気はなかった。
おしぼりでよく手を拭いて、ベッドテーブルを少し奥に押して、あぐらを解いて足を伸ばす。

バナナを食べ切れた満足感に浸っていると看護師さんがやってきて、「お昼を食べられましたか?バナナ食べられたんですね。よかった。」と言ってくれた。
「ご飯を食べられたら歯を磨きましょう」と、歯磨きと水を入れたコップを渡してもらう。

左手で歯を磨く。
普段は右手で歯を磨いているため、うまく磨けないのではないかと思ったが、案外上手に磨ける。
時間もあるし、ゆっくり歯を磨く。
歩けないのでうがいをしたあとの水は、そら豆型の容器に吐く。
特に指示なく、ベッドテーブルに容器が置かれたのでそうなんだろうと勝手に推測したのだ。

何度かうがいをして、水を吐いたら、その上に歯ブラシを置いて終了。
看護師さんが戻ってきて、「はいご苦労様でした」と言って、歯磨きセットとそら豆型容器を洗いに行ったのを見て、使い方が正しかったのだと確認する。

ちなみに、このそら豆型の容器は、正確には「膿盆」というらしい。
そら豆型容器でググったら出てきた