お腹にバナナが入ると俄然元気が出てきて、夕飯に備えようという気になった。
左手を高く上げ下げしてみると案外動くことがわかる。
よし、それならばと腹筋を使って、体を前傾に起こせるか挑戦する。
何度かやってみるも、胸が痛くて腹筋に力が入らない。

それならばと左手を背中のあたりに置き、75度くらいまで立てたベッドを押して体を起こしてみる。
やった、起き上がった。すごく嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。
回復している実感がさらに湧いてくる。
どうやら、腹筋自体は痛くないから、腹筋を使うことは問題ないようだ。
あくまで、体を捻ったり動かしたりするときに胸に響かなければ痛みはないことがわかる。

そこからは、左手をさまざまに使いながらお尻を動かしたりして、体の位置を変えることに取り組んだ。
一通りできることと、痛くなる限界を試したところで、看護師さんからトイレに行けるか訓練をしようという提案が出る。
確かに、朝の清拭で尿管カテーテルを抜いてからトイレに行ってない。
尿意はないが行った方が良いだろう。

ベッドから降りてみようと室内履きに足を入れて恐る恐る立ってみると、めまいがやってきた。
起立性調節障害持ちなので、朝起きた時にフラつくことが多いが、同じようにフラつく。

でも、これはいつもより厳しめのやつで倒れそうだと思い、慌ててベッドに戻る。
どうやら、迷走神経反射のようで、冷や汗もやってきた。
身体中が痺れて目眩と冷や汗に襲われる。
30分ほど休んだあと、立ち上がりのリトライ。
再度立ち上がるが、やはり目眩がキツくて歩くのは無理そうだ。

看護師さんが血圧を測ると70/55とかなり低い。
ここまで低い数字は、今まで経験したことがなかった。
結局、今日は立ち上がって相部屋に戻ることは諦めて、リカバリールームに一泊することにする。
そして、何よりトイレにいけないので、今日中におしっこをしないと、また尿管カテーテルを入れる必要があるとのことで、慌てて尿瓶をお願いする。

早速、尿瓶を使っておしっこをすると、尿意はなかったのに、おしっこがめちゃくちゃ出る。
尿瓶から溢れるのではないかと慌てるが、溢れることなくおしっこ終了。ホッとする。

それからはやることもなく、夕飯を待つしかないので、痛みに耐えながら座った状態のままぼーっとする。
痛み止めのボタンを押して、少し痛みを抑えると、かなり痛みが引いてきて、眠気が出てきた。
うとうとしながら時が過ぎるのを待つ。

おそらく少しは寝ていた時間もあるのだろう、気がつくと夕方の5時になっていた。
6時に夕飯なので、それまでにまた勝手にリハビリをやろうと、左手の上げ下げの運動をしたり、右手を痛くないところまで持ち上げたり伸ばしたりしてみる。
右手は動かすと傷口が痛いのでほどほどにしようと思うが、全く動かさないと筋肉が衰えそうな気がして、動く範囲で反復して動かしてみる。

お尻で座れるようになったので、腰痛は無くなったが、今度は長時間お尻で座っていると、お尻が痛くなるので、重心がかかるお尻の位置を変えてみる。
といっても、自分で腰を動かしてお尻を上げる動作ができないため、自由に動く左手で体を持ち上げるようにしてお尻の位置を変えてみる。
たいして動かないのだが、少し動くだけでも、できることが増えて嬉しい。
自分の問題に自分の力で対処できるという状況が回復を感じさせてくれる。

そうこうしてると、夕飯がやってきた。
ミートローフに、白米と、おひたし、キウイだ。
まだ右手は動かせないので、左手にスプーンを持って食べ始める。

お昼の時よりも明らかに体が持ち上げられるようになっており、食欲も湧いている。
おかずやご飯は、ほぼ半分程度を食べることが出来た。
最後にキウイを食べるがこれが食べにくい。
まるごとのキウイを半分に切ってあるだけなので、左手だけでスプーンを使って実を掘り出さなければならない。
反対側の端を切り落として安定させてあるので器に立つが、力を入れ過ぎると飛んでしまいそう。
慎重に上から掘り起こしていくが、実をだいぶ残した状態で食べるのを止める。

夕飯を6時に食べると、あとはやることはない。
消灯の10時までなるべく体を起こしたままにしたいので、休まずにまた呼吸を繰り返して痛みに耐えることに集中する。

看護師さんが、病室のスマホを持ってきましょうかと提案してくれたが、今は痛みが強くて家族とのメッセージは痛いことを伝えるのに終始してしまいそうなのでやめておく。
もう少し体が回復したらメッセージを送りたい。

誰もいない1人きりのリカバリールームでひたすら呼吸を整えることに集中していると、8時を過ぎた。
10時まで頑張るつもりだったが、体が疲れてきて眠気が出てきたので、尿瓶でおしっこをしてから、寝ることにする。

横になるのもまだ1人では出来ないので、看護師さんに頼んで寝かせてもらう。
相変わらず、胸の右側が痛いが、朝に比べればだいぶ体は楽になってきていると思う。
明日はもっと良くなるだろうと期待して寝ることにする。

しかし、痛くて寝付くことが出来ない。
しょうがないので、痛み止めを増やしたところ、30分くらいで痛みが和らいできた。
すると、しばらくして眠りについたようだ。