【概要】 双三極管12AT7を A2級シングルエンド/バイアス・ゼロで作動させ、BGM用ミニアンプとしての実用性があるのか、試してみました。また電源トランスの代わりに市販のインバーター/コンバーター基板を使って、DC12V電源での駆動も試みました。

 

裸のトランスって レトロ & チープ感がたまりません爆  笑

 

【動機】 先日 6N6Pの差動PPアンプを作成した際に、他の双三極管のデータも眺めていて、面白いことに気づきました。12AT7の規格表などで、グリッド電圧の“正”の部分がやけにしっかり記述されているものがあります。例えばGE社の12AT7のIp-Ep特性では、一つ目のグラフが正のグリッド電圧のものです。また バイアス・ゼロ/Eg = 0V を中心に、Ip-Ep曲線の並び方にある程度の対称性があるようにも見えます。

 これって積極的に A2級 を使っても大丈夫ってことなのでしょうか? 最近のマイブームになってる「ハイブリッドアンプ/オペアンプによる終段管グリッドの直接励振」とも関連して、その有効性を確認する絶好のケースとも考えます。

 ちょうど、オペアンプによるグリッド直接励振の記事(岩村保雄、無線と実験、pp. 33-42、No. 1061、(2011-7))を発見しました。ここでは、オペアンプNJM2114でVHF送信管2E24(シングル)のG1を直接励振しています。しかも バイアス・ゼロです。こんなの見ると勇気が湧きます。

 

【増幅回路】 12AT7をバイアス・ゼロ(Eg = 0V)で使って見ることにしました。最大プレート損失 Pd(max) = 2.5Wです。Eg = 0VのIp-Ep曲線を辿って、Ep = 150V、Ip = 14mA付近(Pd = 2.1W)に動作点を置くことにしました。

 グリッド励振電圧ΔEgは、出力がサチって来る 10Vpp(±5V)くらいあれば良いかと思います。

 

12AT7 Ep-Ip特性 負荷線 7kΩ

 

Eg変化による 負荷線 7kΩ上のIp, Epの移動

(GEのIp-Ep曲線から読み取り)

 

 出力トランスはネット上で評価の高い東栄のT-1200にしました。バイアス・ゼロなので、12AT7のカソードをグランドに接地しています。意味があるかどうかわかりませんが、一応トランスのコールド端は100μFでカソードと繋いでいます。

 ドライブ用のオペアンプはNJM4580DDにしました。Eg > 0Vで急に Ig が流れ始めるようなので、オペアンプから見れば“ダイオード”で終端されているような感じになると思います。エフェクターのダイオード・クリッパみたいなものですね。オペアンプの非対称負荷追従性が悪いと、すぐにクリッピングしてしまう恐れもあります。

 0.5Vrms(1.41Vpp)の入力を仮定し、10VppのドライブAF電圧が得られるためには、必要なドライブの実Gainは 7倍(17dB)となります。非反転増幅のGainを21倍(26.4dB)とし、10dB程度までのNFBがかけられるようにしました。

 普通に鳴ってますが性能保証はありませんグラサン オペアンプドライブの参考文献はこちら

 

【電源回路】 B電源は、パワーも小さいし、安くあげるために市販のインバータ/コンバータ基板を使ってみました。DC780DAと言う製品で、DC8~32V入力を75kHzで最大390Vまで昇圧できるようです(出力可変)。そのままだと正負電圧を出力するようになっていますが、出力トランスに接続されている負出力側のダイオードとケミコンを極性逆転し、正電圧だけの両波整流に改造しました。75kHzだし実験用なので、簡単な平滑回路だけでリプルフィルターは省略してます。100Ω抵抗でRch、Lchを分岐して、それぞれのプレート電流値もモニタできるようにしました。

 オペアンプ用の正負電源も、DC12Vから±12Vを出力できる市販のDC-DC変換基板を利用しました。ヒーターもDC12V点火とし、これで12V電源アダプターだけで全て駆動できます。

 

 

【内部説明】 12V動作のため、電源トランスはありません。左側がB電源用インバーター、右はオペアンプ用正負電源、中央上がNJM4580(または NJM4556A)を用いたドライバーです。中央に12AT7があり、一本で左右のチャンネルを増幅しています。

 

【結果】 意外にも普通に鳴っています。恐れていた「ダイオード・クリッパ」にはなりませんでした爆  笑。広さ8畳の作業場で小さなモニタースピーカーで聴いてますが、低音も高音も違和感なく普通です。歪みも感じることなく、BGM用途に全く不満はありません。能率86dB程度のスピーカーですが、うるさすぎて最大出力にはできません。出力は 600 - 700mW程度かと思うのですが、嘘みたいにでかい音です。出力を大きくするとたぶん歪んでるのでしょうけど、半導体アンプよりは「歪みを感じにくい」のかも知れません。

 Ep 150Vで Ip 14mAくらいを期待しましたが、実際には12mA程度でした。B電圧を少し上げて、Ep 155V, Ip 13mA, Pd 2.0W に再設定しました。オペアンプのオフセット出力電圧は10mV前後でしたので、問題ないでしょう。

 Eg = 0Vの設定でも「ダイオード・クリッパ」にはならなかったことから、一応「ゼロクロスのA2級アンプ」として作動していると考えてよいのでしょうね。Eg > 0V 領域でのみオペアンプからグリッド電流が供給されていることになりますが、オペアンプの非対称負荷への追従性が良かったということでしょう。念のため、電流容量の大きい NJM4556ADD にも差し替えましたが、差は感じません。

 グリッド電流が十分供給されていると仮定すると、クリッピングが起こるよりも前に、プレート特性によるコンプレッションが掛かったような状態になっているのかもしれません。ただ、大音量時は耳も飽和気味なのか、聴覚上は良くわかりません。なお、カソードをグランドに接地したバイアス・ゼロなので、プレート電流にグリッド電流が加算されることによる動作点(バイアス)の移動は、気にしなくても良いかと思います。

 インバーター、コンバーターからのEMI(電磁障害)はちょっとやばいですね。スピーカーから何か小さな音がしてましたガーン。 B電源用の昇圧コンバーターを厚紙とアルミテープでくるんでシールドすると、治まりました。さらに、DC12Vの入力も含めて手持ちのRFCを介して配線したり、RF回路のような”どこでも接地”にすると、厚紙とアルミテープのシールドを外しても不快感の無い状態になっていますニヤリ。ACアダプターも含めて、電源ライン経由のEMIだったようです。

 RCA入力端子からドライバ回路の入力までシールド線を使って配線していますし、アンプ全体のアルミケースには裏蓋も付いていますので、ハムノイズも感じません。

 

【感想】 ネット上には 「ミニワッター」 と言う素晴らしい文化があり、「小さなアンプでも楽しめるんだ」ということで、とても勇気づけられてます。

 (1)どこまで小さな出力で実用になるのか?興味がありました。12AT7シングルと言うと、ミニワッター群の中でも出力の小さいほう(600 - 700mW)かなと思いますが、今回作ってみて結構大きな音で使えるのに驚きました。また、

 (2)A2級って興味あるけどグリッド電流を流すってどういうこと?とか、

 (3)電源トランスの代わりにインバータ/コンバータは使えないの? とかにも興味がありましたが、今回これら3つの疑問を同時に試してみることができ、とても満足しています。

 ボクは、簡易型オシロと簡易型ファンクションジェネレータくらいしか持ってないので、耳で聴いてみて違和感がなければ安易にそれで完成と言うことにしています*。どうぞご容赦ください。

 

* ライブでPAを担当していると、「スピーカー」と「会場」の組み合わせであまりにも音が違うので、EQやリバーブで「違和感のないところまで追い込めればそれでよし」と言う雑なクセがついています爆  笑

 

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