呼吸器内科の先生から
新型コロナウイルス(2019-nCoV)に関する最新知識のまとめ 医療法人社団ファミリーメディカル 横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック 三島 渉昨年の 12 月から中国武漢市を中心に広がっている新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症の流行を受けて、医療機関、学会、行政が連携して対策を講じている状況です。現時点で明らかになっていること、まだ不明な点をまとめてみました。2020 年 2 月 12 日時点における本ウイルスの感染者数は全世界で約 4 万 4 千人、死亡者数 は約 1,100 人でした。その内、圧倒的多数は中国における感染者が占めています。 中国以外では世界 20 カ国以上で感染者が報告されています。国内では 2020 年 1 月 3 日に最初の国内の感染例が報告され、2020 年 2 月 12 日時点では感染者数は 203 人でした。その多くはクルーズ船内の乗客と乗員の 感染例(174 例)であり、さらに検疫官1人、武漢からチャーター機で帰国した 12 人、それ 以外の観光客などが 16 人となっていました。しかし、その後、無症状者からのウイルスの分離などの事実が明らかとなり、本邦にウイルスが入り込み、すでに市中において散発的な流行が懸念される事態となっています。新型コロナウイルスは呼吸器系の感染を主体とする感染症です。ウイルスの主な感染部位によって上気道炎、気管支炎、および肺炎を発症します。本ウイルスに感染した方全員が発症するわけではなく、無症状で経過したまま自然治癒した人も存在すると考えられます。感染者の症状としては、発熱、咳、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難などが比較的多くみられています。頭痛、喀痰、血痰、下痢などを伴う人もいらっしゃいます。一般的には呼吸困難がある場合は肺炎をおこしていると推測されますが、発熱、咳など比較的軽い症状だけで呼吸困難がなくても肺炎を起こしている場合や、1 週間以上の上気道炎症状が続いた後に肺炎が出現する場合があります。新型コロナウイルス感染症だけに特徴的な症状や所見はありません。本ウイルスに感染した方に認めやすい症状の特徴としては、長く続く発熱と強い倦怠感であると言われています。少数ながらみられる重症例は肺炎を発症していると考えられますが、さらに死亡例では急速に進行する呼吸不全や敗血症などの合併がおこったことが推測されます。どんな人は新型コロナウイルス感染症が重症しやすいかや、新型コロナウイルス以外の細菌感染症がどの程度合併するかなどの詳細はまだわかっていません。感染対策の基本はインフルエンザに準じてください。コロナウイルスはもともと風邪の病原体として見つかってきたウイルスです。その中から SARS や MERS などの病原性の高いウイルスが出現し大きな話題となりました。今回の新型コロナウイルスがどの程度の病原性を示すのかは、まだはっきりしていません。現時点においては新型コロナウイルスの病原性は季節性インフルエンザ相当、あるいはやや強いが妥当ではないかと考えられています。ただし、経過中の肺炎の合併には十分注意する必要があります。熱・呼吸器症状が持続する場合には、下記HPを参考に御相談ください。帰国者・接触者相談センターページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/covid19-kikokusyasessyokusya.html医療機関では、症状のみで診断を確定することはできません。症状、診察所見および各種検査結果から、まず他の呼吸器感染症との鑑別を行います。特に類似した症状を示すインフルエンザなどの感染症については、抗原検査等を行って除外診断を行います。肺炎が疑わしい場合は胸部X 線、胸部 CTを行います。肺炎と診断された場合は肺炎球菌や レジオネラ属菌の尿中抗原検出、マイコプラズマ遺伝子検出、呼吸器検体の培養、血液培養など他の病因病原体の検索のための検査を同時に行います。中国における死亡数の増加に関しては引き続き検討が行われています。 武漢市を中心に中国のほとんどの地域から 17,000 人を超える感染例が報告されており、中国 における死亡者数は 360 人を超えたと報告されています。なぜ中国でこれだけ多い感染者数・死 亡例がみられているのかはわかっていません。医療機関への受診の遅れ、高齢者や免疫不全 患者における感染例の増加、ウイルス感染に続いて生じる細菌性肺炎の合併などの可能性が考 えられます。現時点における中国での死亡率は約 2%とされていますが、検査をされていない軽症 の患者が多数存在することを考えると、その数字は今後低下する可能性があります。本邦では、今後の症例数の増加にともない、中国と同様に重症例が報告されてくることも考えておかなければなりません。 免疫不全患者、高齢者にたいしてはとくに対策が必要になります。 新型コロナウイルス感染症の特徴の1つとして、高齢者における感染例の集積があること、小児における重症例が少ないことがあります。長期療養型施設における高齢者は、さまざまな基礎疾患を有しており、インフルエンザやノロウイルスにかかりやすく重症となることが知られています。新型コロナウイルス感染症がこのような高齢者施設で流行しないように、細心の注意を払って対応する必要があります。高齢者や免疫不全 患者は本感染症にかかった場合に重症化しやすいことから、濃厚接触が起こりやすい人込 みの環境や閉鎖空間を避け、以下に示す感染対策を徹底することが重要となります。今問題 となっているクルーズ船内や院内環境はまさに注意しなければいけない環境ということに なります。 感染対策の基本は咳エチケットと手の清潔です。 コロナウイルスの感染は飛沫感染が主で、咳やくしゃみによりウイルスが伝播されることにより生 じます。したがって、インフルエンザに対する予防と同様に、咳エチケット、手洗いなどの感染対策 が有効です。感染対策としてもっとも重要なことは手の清潔です。マスクを着用していてもウイルス で汚染した手指で目、鼻、口などに触るとこれらの粘膜から感染する可能性があります。不用意に 口や鼻、目を触らないように注意しましょう。咳やくしゃみなどの呼吸器症状がある人は、他の人に 感染を広げないためにもマスクの使用が有効かと思われます。現在、マスクが不足している状況ですが、内側のガーゼを交換する、あるいはガーゼを水洗いしてから乾燥させて再利用するなどの 工夫を行うこともできます。ウイルスで汚染した手指を介して目・口の粘膜から感染が伝播される可能性に注意する必要があります。手洗いや手指消毒の徹底が感染症対策の基本です。 マスクを利用した感染症対策についての情報は、以前に当院のHPに詳しく記載しました。さらにお知りになりたい方は下記をごらんください。https://www.kamimutsukawa.com/blog2/kokyuuki/339/その他の参考文献、情報厚生労働省 新型コロナウイルスに関する Q&A https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001. html新型コロナウイルス感染症に対応した医療体制についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000591991.pdf中村啓二、忽那賢志、大曲 貴夫他、当院における新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症 患者 3 例の報告http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/2019ncov_casereport_200205. pdf 9WHO Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspectedhttps://www.who.int/publications-detail/infection-prevention-and-control-during-healthcare-when-novel-coronavirus-(ncov)-infection-is-suspected-20200125CDC Interim Infection Prevention and Control Recommendations for Patients with Confirmed 2019 Novel Coronavirus (2019-nCoV) or Patients Under Investigation for 2019-nCoV in Healthcare Settin