従姉妹のお話 | 約束の場所

約束の場所

生まれつきの視える人



私の二つ上の従姉妹は、歳が近い事もあって小さい頃は本当に仲良しだった。



親戚が異様に多い一族で、会った事のないいとこ達もいる中で、家に泊まりに行ったりもする、長女の私にとっては唯一の【お姉ちゃん】だった。



若くに結婚し、ひとり娘を産んですぐに離婚。母親である伯母の老後は(伯父は既に他界)、自分がみるからねとずっと言っていて、伯母もとても頼りにしていたお姉ちゃんだった。



そんなお姉ちゃんが、若くで癌になった。幸い末期ではなく克服する事が出来て、一族みんなが安堵した。



数年後、私の父親が膀胱癌で亡くなったお通夜の日、お姉ちゃんはすぐに駆けつけてくれた。


「伯父さんは頑張ったね。4回も癌になって……生還する度に、私は本当に勇気をもらってたよ」


病の苦悩を知るお姉ちゃんだけは、他の親戚と違う目線、言葉で私に寄り添ってくれた。


「お姉ちゃんも身体を大事にしてね」


あまり体調が優れないと聞いていたから、私はそう声をかけた。







暫くして、私は夢を見た。私は夢の中で喪服を着ていた。でも、そこは結婚式場だった。


ふと前を見ると、私の父がタキシードを着て金屏風の前に立っていた。そして、その横には文金高島田姿のお姉ちゃんが立っていた。


そして、その和装は白ではなく黒い着物だった。


ガバッと飛び起きて、胸騒ぎがした。父親が何かを伝えたいはず、それはわかった。


数日後、その予告通りお姉ちゃんの癌が再発した事を知った。あと、もう手術も出来ない状態な事も同時に知らされた。







お姉ちゃんは再発しても前向きだった。

動ける時は外に出て、温泉療法があると知ると、それを調べて受けにいった。


私の父は、余命あと2年宣告から20年生きた。もう歩けないと言われても歩いてみせた。だから、みんな奇跡が起こると信じ続けた。 


実際、お姉ちゃんの状態は小康状態を保っていた。

勿論、もう良くなる事は叶わないけれど、少しでも状態が安定します様に……そう、祈っていた。



そんなある日の事


朝起きてリビングに行くと、父親の写真立てが床の上に転がって落ちていた。


キッチンカウンターの上に飾っていたはずなのだけど、それが、1メートルくらい離れた床の上に落ちていた。


写真の前には、少し高さのある小物を4つ程置いていた。それは全く動いた形跡がなかった。


地震あったっけ……?🤔


まずはそう思ったけれど、地震も無かったはず……


じゃあ、猫??🤔


それが一番腑に落ちる理由なのだけど、うちの猫達は高い所に昇らない(昇れない)のと、それなら小物も一緒に落ちてないと、さすがに不自然だった。


お姉ちゃんに何か………


何だかそう思って、胸騒ぎがした。確かに最近の近況を聞いてなかった。


早速、それとなく叔母に様子を聞いた。

「急にとても調子が良くなった」と聞いて、気にしすぎだったのか……と、安心をした。


でも数日後、お姉ちゃんはいきなり自宅で急変、そして旅立ってしまった。本当に突然に。





亡くなっても、お姉ちゃんは私の所に現れなかった。

少し寂しいなと思いつつ、お通夜に行く支度をし、親戚からは叔母がとても気落ちしていると聞いた。


そりゃ、我が子が先に旅立って気落ちしない親等いない。

歳の近い同姓の私が行って、逆に悲しませたりしないだろうか……とも考えたけれど、妹に迎えにきてもらって葬儀場へ向かう事にした。




「○○姉ちゃんは来てないの?」


もはや私の不思議は当たり前な妹が聞いてきた。


「うん、来てないかな……身内が亡くなって来なかったの初かも……あ、待って。。」


そこで初めて、お姉ちゃんが傍に居る事に気づいた。


幽霊になろうが、お姉ちゃんはお姉ちゃんなのだ。生前の性格そのままに、人に気を遣う性格そのままの。


その事への配慮が、私には全く出来ていなかった。


「私に気を遣って、静かにただ黙ってたのね……お姉ちゃんいいんだよ?色々言って?何か欲しい物とかない?心残りはない?」

お姉ちゃんは、飲み物も食べ物も一切欲しがらなかった。ただ、無言で寂しそうにそこに居た。





葬儀場につき、対面させてもらうと伯母が泣きながら私の所にやってきた。


「私が変わってあげたかった……良い事をしたら神様に救ってもらえるかもって、おばちゃん沢山ボランティアもしたんよ。朝陽に沢山沢山、助けて下さいってお祈りしたんよ。それやのに、叶えてもらわれへんかった……」



うんうんと、一緒に泣きながら話をただただ聞いた。伯母の事が気になったけれど、私はそれ以上に、そこに悲しそうに立っているお姉ちゃんの事が気になっていた。



『私、成仏しない……お母さんの傍にいる……そして見守りたい……』


お姉ちゃんの言葉に、私は焦り始めた(こんな時、純粋に悲しめなくて本当に悲しい😭)


葬儀の間、皆が涙する中で、私だけお姉ちゃんをガン見し続けた。


お姉ちゃんは静かに自分の遺影を眺めたり、自分の棺を見つめたり、そしてほぼ泣く伯母の傍らに寄り添い、悲しそうに肩を撫で続けていた。


「あぁ……これはかなりマズイ……」


私は泣くのを止めて、説得モードに切り替えた。



成仏するにも少しプロセスがいるの。だから、初七日とか四十九日とか昔からあるの。急がないとゲートが閉まってしまうの。このまま残った方が色々後々大変な事になるの。とりあえず、一度戻っとこ?再会も楽では勿論ないけど、再会出来ないわけじゃないの。ね?お願いだから。



お姉ちゃんは、私の力説に耳を静かに傾けてくれて、そして最後はしぶしぶながらに納得をしてくれた。


テレビのある個室(死後に人生を振り返る部屋)に、入ったお姉ちゃんを見て(成仏ルートに乗った)安堵から私は大きく息を吐いた。



全てが勿論そうじゃないだろうけど、大切な存在があちらに還ったら、やっぱり悲しみ過ぎてはいけない。後悔もしてはいけない。

それならば、沢山の『ありがとう』を、送った方が絶対に【いい】




後ろ髪ひかれず、あちらに笑顔で還れる様に。


それがきっと、残された者の最後の役目。