23日月曜日のリハビリは「本人都合により欠席」をした。本人都合と言うのは、年明けにはある程度仕事に復帰したいと思い、その為の職業リハビリをするためである。体力的に以前の半分は仕事をこなせるなと自信を深めた。完全復帰を目指しての体力レーニングを増やすこと、以前のクライアントにお知らせすることなどの課題が見つかった。

 

 そんなこんなで担当のお姉さんと打ち合わせを兼ねて食事をした。私は「決められない人」なので店もメニューもお任せである。彼女が利用する駅に向かう道すがらのこんな所に韓国料理屋さんがといった感じのビルの2階に入る。平地は普通に歩けるが、どうも階段は障害者らしい歩き方しかできない私を気づかって、「いつでも転げ落ちてきてください。受け止めますから」と男前な声をかけてくれる。酒が飲めないので気が引けるが「どうぞ、お気になさらず」とノンアルコールの食事に付き合ってくれる。「韓国ドラマはよく見るが、韓国の女性アイドルグループのクネクネダンスはどうも理解できない。」と言うと「理解するモノでなく感じるものですよ。」と窘めてくれた。韓国鍋と太巻きの食事を終えて私が食事代を払うと「この後、お茶しましょ。コーヒーご馳走します。」と食後のコーヒーに誘ってくれた。

 

 黒い革ジャンを椅子に掛け乍ら座る彼女に「僕はこれ、」と卓上メニューにある、お薦め珈琲を頼みトイレに行く。コーヒーも1年以上ぶりだが綺麗なお姉さんと二人で茶店に入るのは何年ぶりだろうかと緊張する。気分を立て直して席に着くとモカコーヒーが来た。彼女は「わたしミルクが苦手なので豆乳オレ頼みました。豆乳オ・レなんて白い白馬みたいですね。」などと正面に座る彼女と他愛もない話を始める。落し気味の照明にも黒髪が美しく、白い肌に吸い込まれる。私にはキレイな女性を見ると目をそらして斜に構えるという脊髄反射がある。それが起きる。左腰が痛い。正面に向き直る。正対すると緊張するので自分がしがない老人と思わない事にする。18位の少年にもどってキラキラした目で彼女を見上げる。彼女はクラッシック音楽・オペラからジャズまで洋楽に造詣が深い。一方私のスポティファイは三波春夫の大忠臣蔵のあとにyamaの春を告げるの後に吉永小百合の寒い朝や斉藤由貴の卒業を流してくる。歌謡曲専門である。気落ちした瞬間、斜に構えてしまう。腰に激痛が走る。姿勢を正し、彼女を見る。脳神経12対のどれかが試合後3日目のボクサーの腫れたまぶたの様に視界を潰し始める。ぱっちりと瞳を見開き奇麗なお姉さんを網膜に焼き付ける。キラキラエフェクトが眩しい。左腰に激痛。lineは以前に継いでもらったが、Facebookを使えるようにと彼女に携帯を渡す。老人用携帯がうらめしい。「ラストオーダーですが、」という女給の声を切っ掛けに店を出る。支払いを済ませ、黒い革ジャンを羽織りながら店を出る彼女にドアを開けて待つ。駅のコンコースの入り口で「ここでいいですよ。来月は時間が取れなくて、月曜の12時銀座でお願いします。スイマセン。」と挨拶をして消える彼女の後姿に見惚れる。銀座で待ち合わせなんてデートの約束か!いや平日の昼だ。単なるミーティング、打ち合わせだと自分に言い聞かせる。でも、

 

 なんだか幸せな気分

 このしあわせの記念に

 馴染みの本屋で本を購入する。

「ちいさな手のひら事典 フランスの食卓」を

 ポケットに入れ、

 晩秋の冷たい風の中

 一人宿舎に向かう。