殺人犯 対 殺人鬼
を、読了しました。
以前から気になってはいたのですがなぜかまだ未読だったこの作品。
早坂吝さんの本は、何冊か過去に読んでいますが、どれも
・突拍子もない設定やトリック
・でも小説のムードは割とシリアス
という印象です。
バカミス……と言っていい程のトンデモなオチだったりするのですが、小説自体はおちゃらけていないのです。
娯楽系推理小説として面白そう、と期待して手に取りました。
↓殺人犯 対 殺人鬼
孤島にある児童養護施設「よい子の島」。
網走一人はそこで連続殺人を行う計画であった。
施設の大人達は皆、所用で島を離れており、更に悪天候の為、戻ってくる予定がない。
島に残されているのは少年少女だけ。
今夜が計画実行には最適なのだ。
最初のターゲットは剛竜寺翔。
彼はいわば施設における苛めグループ3人組のリーダー格。
彼らに「ごみ」と呼ばれ苛められていた少女:五味(いつみ)朝美は、飛び降り自殺を図り、今も意識不明のままだ。
殺意を胸に、剛竜寺の部屋に忍び込んだ網走。
が、剛竜寺はすでに何者かによって殺害されていた!
そして、その左目はくりぬかれ、替わりに金柑が埋め込まれていた。
自分以外に、この施設内に殺人鬼がいる!?
しかし、ターゲットは自分で殺さなければ意味がない。
網走は周囲の目を盗み、次なるターゲット:御坊長秋を殺害することに成功。
時を同じくして巨漢の少年:飯盛大が何者かに殺害されているのが発見される。
そしてその全身には黒ペンキがぶちまけられていた。
果たして、網走は殺人鬼の正体にたどり着けるか?
いやぁ~、いっぱい人が死にます。しかも主に少年少女。
そういう展開が倫理的にアウトな方には全くお勧めできません。
そうでない方には、割とおすすめ。
主人公の網走一人が明確に殺人者なので、犯人目線で描く 倒叙もの
であり、同時に
網走以外に連続殺人を実行しているのは何者か? という フーダニットもの
を兼ねているのです。
一粒で二度おいしい。
冒頭の主要登場人物紹介のところで、「この中に殺人鬼Xがいる」と明言されています。
そして幕間的な章で「殺人鬼Xの過去」が語られます。
いやぁ、この「殺人鬼Xの過去」のパートでもバンバン人が殺されます。
そんな派手な展開の中で、物凄く巧みに伏線が張られていて、叙述トリックも仕掛けられていて、かなり技巧を凝らした小説です。
謎が次々に解き明かされていくパートは驚きの連続。
あ、そういえばそんな描写、あったっけ、と、つい忘れてしまっていそうな細かいところまできっちり拾って謎解きをしてくれます。
し、しかし……メイントリックのあまりのバカさは、それら細かな謎解きの印象をぶっ飛ばしてしまうインパクト!
こ、こんなの分かるか(笑)! と笑い飛ばしたくなるのですが……実は謎を解く為のヒントは、しっかりと提示されており、感心することしきり。
推理小説として、私はフェアだと思います。
西澤保彦の 殺意の集う夜 と、類似している要素が多いかな?とも思いますが、メイントリックのバカ度ではこちらの方が上かなぁ(笑)
いや、殺意の集う夜、大好きなんですけどね。
(「殺意の集う夜 再読」
「殺意の集う夜 再読(その2)」参照)
倒叙ものとフーダニットもの……というより
荒唐無稽なおバカ小説 と 高度な技巧が光るテクニカルな小説
という両極端な魅力が詰まった、一粒で二度おいしい作品でした。
おまけ
昔作ったやつ。
ブログの内容とは、全く関係がありません。