鵼の碑 読了。
↓鵼の碑
いや~、時間かかったなぁ。
ちょっとこのところ、読書のペースが落ちていますね。
私、読書は通勤電車の中だけと決めており、かつ、未読の本は通勤鞄の中にどんどん溜めていくので、この作品を呼んでいる間は大変だった。
どんどん鞄が重くなっていくんですもん。
中身はもうパンパンで、このところ新しく本を購入するのは控えていました。 だってもう入らない状態になっていて。
そんなことはともかくとして、以下、ネタバレ有の感想。
蛇:劇団付きの作家である久住加壽夫(くずみかずお)は、執筆の為逗留している日光榎木津ホテルのメイド=桜田登和子(さくらだ とわこ)から、「自分は幼い頃に父親を殺してしまった」とうち明けられ、これからどのように彼女と接すれば良いのかが分からなくなり、悩んでいた。
偶然出会った作家の関口巽(せきぐちたつみ)にそのことを相談したところ、半ば成り行きで二人は登和子の過去を探っていくこととなる。
虎:勤めている薬局の経営者:寒川秀巳(さむかわひでみ)を捜してほしい と薔薇十字探偵社に依頼してきた女性=御厨冨美(みくりやふみ)。
寒川は、彼の父親の事故死に不審なものを感じて以前から調べており、どうやらその話に大きな進展があったらしく、調査に出たまま行方をくらましてしまったのだという。
日光へ旅行中の探偵長=榎木津礼次郎(えのきづれいじろう)に代わって依頼を受けた探偵の益田龍一(ますだりゅういち)は、寒川が日光を訪れていたことを突き止め、御厨と共に現地へ向かう。
貍:刑事:木場修太郎(きばしゅうたろう)は、退官した元相棒:長門の壮行会の席で、20年前に起きた奇妙な遺体消失事件の話を聞く。
同時期に起きた未解決の放火殺人事件との関連性を上司の近野から教えられた木場は、放火殺人事件の遺族=幼子であった笹村(ささむら)兄妹が引き取られた日光へと向かう。
猨:友人の中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)、大学の後輩の仁礼将雄(にれまさお)と共に、土中から発見された古文書の整理と調査を行っていた輪王寺の学僧=築山公宣(つきやまこうせん)。
彼は、寒川秀巳に出会い、彼から旧尾巳村に関する話を聞いたことで、その信仰に大きな揺らぎを生じてしまう。
鵺:医師:緑川佳乃(みどりかわかの)は、遺品整理の為、死亡した大叔父の猪史郎が運営していた旧尾巳村の診療所を訪れる。
しかしその診療所は通常の村の診療所とは異なる、何かの目的の為に存在した施設であった。
果たして大叔父は何にかかわっていたのか?
それぞれが、それぞれの事件を追う中、新たに浮上してくる謎……。
燃える石碑。
光る猿。
軍部の陰謀。
暗躍する公安。
放射性物質。
無関係に思われるそれぞれの事件は少しずつ重なり合い、事件はまるで鵼のごとき姿を見せていく。
果たしてその実態は?
それぞれにバラバラの事件が起こり……いや、事件が起こったというより「存在していた」ですね。 特に新しく殺人事件が起こったりするわけではないです。
「鵼」(キメラのような複合獣)が今回の怪異であるため、こういった構成なのでしょうが、とにかく事件の実態がつかめない。
そもそも何が謎なのかが見えにくい上、切羽詰まった解決を急ぐ事件が起こっていないので、ミステリーとしての「引き」はやや弱いか。
また、登和子の憑き物は中盤で木場が落としてしまうし、登場人物達が総じて事件への関りがやや弱く、作品全体で焦燥感のようなものが薄いという印象。
あえて言うならば、「なんか解決しないと座りが悪いから」というような理由で皆事件に首を突っ込んでいるのです。
作中で最も解決されるべき問題は「寒川の失踪」だと思うのですが、これが未解決に終わってしまうので作品のラストはやや爽快感に欠け、憑き物落としが行われても、読者の心のもやもやは完全には祓われない感じかなぁ。
非常に理性的な好人物として描かれていただけに、寒川が陰謀論にはまったままあっちの世界へ行ってしまったのは、なんとも残念。
まぁ、陰謀論は恐ろしい、と。
と、感想としてはやや不満めいたことを書いてしまいましたが、人気シリーズ17年ぶりの新作、というのは胸を熱くするものがあり、キャラクター達との再会は素直に懐かしく嬉しいです。
そういえば、生前の父と私は趣味などの分野では特に合う話題などろくに持ち合わせてはいませんでしたが、京極夏彦作品に関しては親子共に読者であり、話をすることもありました。
もし父が生きていたら、17年ぶりの新作の感想を語り合ったりすることもあったのかなぁ……。
感想としてはやや辛口なことを書いてしまいましたが、実際の読後感はそれほど悪くはなく、楽しい読書体験でした。
おまけ
昔作ったやつ。
ブログの内容とは、全く関係がありません。