ジェリーフィッシュは凍らない 読了。
↓ジェリーフィッシュは凍らない
しばらく、社会派ミステリーやら、特殊状況ミステリーやら、ハートフルミステリーやらといった物ばかり読み続けていた気がするので、いかにも正統派のミステリーらしいミステリー。推理物、が読みたいな、と。
比較的最近でその気分になった際、目的の本が見当たらず脱線(?)して、悪の教典 を読んじゃったんですよね。
今度こそ、というわけで、以前から気になってはいたのだけど、未読のままであった
ジェリーフィッシュは凍らない
を借りてきました。
1980年代。東西冷戦の頃。
画期的な素材技術により、「真空気嚢」作成が可能となり、飛行船は危険な可燃ガスを使用する必要がなくなり、また従来よりも小型化が可能となった。
この新型飛行船=「ジェリーフィッシュ」は、広く世界に普及していくこととなる。
そしてこの素材技術の生みの親たるUFA社の技術開発メンバー6名は、2泊3日の新型ジェリーフィッシュ長距離航行試験に出ていた。
メンバーは
・フィリップ・ファイファー教授(技術開発部部長)
・ネヴィル(副部長)
・クリストファー(研究員)
・ウィリアム(研究員)
・リンダ(研究員)
・エドワード(派遣社員)
が、その最中、責任者=技術開発部長であるフィリップ・ファイファー教授が、何者かに毒殺されたと思われる死体で発見される。
戦慄する残り5名のメンバー。
トラブルはこれだけでは収まらず、自動航行装置の異常により、試験機は予定コースを大きく外れ、H山の中腹に不時着を余儀なくされる。
雪山の中に閉じ込められることとなってしまった5人。
救助を待つ中、ネヴィルが何者かによって毒殺される。
一人、元からの研究室メンバーではない新参のエドワードは、他の3人の行動に不信を抱く。
彼らが恐れる「レベッカ」とは何者なのか?
数日後。
H山で発見された、焼け落ちたジェリーフィッシュから、6名の死体が発見され、刑事のマリアとその部下のレンは捜査を開始する。
6名の死体の内1名は首と手足がバラバラに切断されており、事故ではなく何らかの事件であったと考えられる。
しかも、調査の結果、6人は全員他殺と考えられる。
しかし、では犯人である「7人目」は、どうやって雪山の中から脱出したのか?
不可能であった。 つまり、「7人目」など、存在し得ない。
犯人は試験飛行のメンバー6名の中にいるはず。
しかし、6名の遺体はどう考えても「他殺」と思える痕跡があり、5名を殺害した後、犯人が自殺したという状況とは考えられない。
必ず7人目がいるはず。
完全に矛盾する不可能状況での犯罪であった。
やがてマリアとレンは、ジェリーフィッシュの真の発明者は、フィリップ・ファイファー教授の研究室メンバーではなくレベッカという女学生だったのでは、という疑惑に突き当たる。
しかしレベッカは、十数年前に亡くなっており、その状況は完全密室であった為に、事故 として処理されていた。
もしかすると、それは事故ではなく、レベッカは、フィリップ・ファイファー教授の研究室メンバーによって殺害され、研究成果を盗まれたのでは?
今回の事件は、その真相を知る者による復讐なのでは?
しかし、警察の懸命の捜査にもかかわらず、レベッカの家族、親類、友人関係からは、今回の犯行を行える人物は浮上してこないのであった。
はたして、7人目は存在するのか?
存在したとしたら、どうやって雪山から脱出したのか?
存在しないのだとしたら、6名のメンバーの内の誰なのか?
なぜ6人とも他殺としか考えられない状況なのか?
レベッカ死亡の際の密室のトリックは?
そして、レベッカの家族、親類、友人関係からは、今回の犯行を行える人物は浮上してこない……一体犯人は何者なのか?
ぶっちゃけ、読み始めは、
洋画の字幕を読んでいるかのような雰囲気 で、まぁ、これはこれで面白いけれど、感情移入し辛いキャラばかりだし、しんどいかな、とも思った。
が、構成の面白さで興味が持続。
ジェリーフィッシュ内で、一人、また一人と殺されていく「クローズドサークル物」の面白さを十分に堪能できるパートと、6人全員が他殺体という事件後の調査を行うマリア&レンを主役とした、不可能状況を突き崩していく「捜査・推理パート」という時系列の異なる二つの流れが、交互に描かれるんですね。
これが面白かった。 効果抜群。
そして
注:ここからは重要なネタバレ含みます。未読の方で、読んでみようかな? と少しでも思う方は絶対読んじゃダメです。
ノーマルな(?)トリックと、叙述トリックの合わせ技による意外性!
うん、何と言うか、叙述トリック物とは思っていなかったので、無茶苦茶叙述トリックが仕掛けられていたということが分かった瞬間「やられた感」が半端なかったですよ。
叙述トリックだけでなく、犯人が仕掛けた入れ替わりトリック、脱出トリック(まぁ、こっちも半分叙述トリック的でしたが)も、残念ながら解決編で明かされるまで私は解けず。
そ、そういう事だったのか~! と、明かされる真相に納得していき、目の前の霧が晴れていくかのようなこの快感!
これだから、よく出来たミステリーは面白い。
そして
クライマックス、犯人を目の前にしてのマリアの「あんた誰?」は、間違いなく名セリフだと思います。
思わず吹き出しそうになりました。
そしてそこから語られる犯人の意外な正体には、完全に「してやられた」感じです。
はい、私、叙述トリックに騙されるのが好きなんです。
折原一さん(叙述トリックの名手として知られる作家さん)とか、好きですもんねぇ。
(騙されなかった場合は、逆にその作品に対する評価が無茶苦茶低かったりします。世間がどんなに評価していたとしても)
ミステリーらしいミステリーを読みたい、という今回の趣向に完全に沿った形で満足できました。
うん、途中で挫折せず、読み切って良かった。
面白かったです。