戦後の日本は高度な官僚国家である。役人と相対する議員、首長の中にも官界出身者が少なくない。敗戦後、軍は解体され、社会各層の指導者たちが一時的に没落していた間に残存し、勢力を拡大させてきた官僚組織は戦後日本を支配しつづけてきた。そこには利点もあったが弊害も生まれている。

 長い海外生活を経た宮本氏の目を通すことで見出される厚生省の陋習。それは日本社会の縮図でもあったのだ。多少の変化があったとしても根本的な問題は二十一世紀の現代日本でも変わらない。寧ろ、海外の影響を多分に被った今の日本では当時以上に複雑怪奇な状況にあるのかもしれない。

 理想と現実はどの時代、場所でも一致することはない。だが、常に惰性に陥らないように努力することを、人間は誰であれ求められているのだ。