具体的に口腔ケアに用いる器具について述べていく

角らは、安全かつ効果的に口腔内微生物を減少させ,適切な口腔微生物叢を形成する口腔ケア法について検討し、口腔ケアのシステム化として報告している。(5分でできる口腔ケア.医歯薬出版,東京,2004.)その基本コンセプトとして、以下の7点をあげている。口腔ケア器材の選定は、こうしたコンセプトに従い実施されることが望ましい。

1) 簡単(誰でも短時間にできる)

2)安全(誤嚥など危険がない)

3) 省力(介護負担の低下)

4) 有効(確実な効果)

5) 普遍性(誰が行っても同等の有効性)

6)経済性(誰でもが実施できる費用)

7)1口腔単位(口全体をきれいにする)

以下に、規格化された口腔ケアに使用される器材をまとめる

 1)スポンジブラシ

組織を傷つける事が少ないため、口腔粘膜の清掃によく用いられている。食物残渣などの湿潤した付着力の弱い汚れの除去に効果を発揮する。粘膜に強固に乾燥して付着した残渣の除去に際しては、事前に保湿剤などを使用して十分に湿潤させないと除去が困難である。歯面に付着した歯垢(デンタルプラーク)の除去は困難で、歯ブラシが必要である。口腔ケアスポンジは極めて多種のものが開発,市販されている。

2)  舌ブラシ

 舌苔には豊富な微生物が存在する。口臭の原因物質である揮発性硫化物は、口腔内微生物が口腔内の食物残渣や口腔軟組織中のタンパク質を分解する過程で生ずると言われている。口腔内の揮発性硫化物は舌背部の粘膜表層に付着すると言われている。舌の清掃は、スポンジブラシなどでも可能であるが、非経口栄養の場合などでは、舌背部の付着物は乾燥して除去が困難になることも多い。このような場合舌ブラシの使用が効果的である。舌奥から舌尖へとブラシを前方に擦るようにして汚れを除去する。

3)歯ブラシ

  デンタルプラーク(歯垢)は、バイオフィルムとして歯面に強固に付着する。うがいやガムの咀嚼などでは完全に除去できない。歯ブラシを用いて擦り落とすことが必要である。

歯ブラシを用いてプラークを除去するときの大原則は、「プラークを除去する必要のある歯面に歯ブラシの毛先を直角に当て、ブラシを小刻みに動かす事」であり、この際に最も効果的にプラークを除去することが出来る。歯ブラシの毛の材質は、適度に硬さがあることが重要であり、柔らかいほどプラーク除去効果は悪化する。もちろん粘膜が脆弱になっていれば、硬い毛で歯肉を傷つける可能性もある。ブラシのヘッド(植毛部)は大きすぎても小さすぎても歯面に直角に接触に当てにくくなるため清掃効果が衰える。一般的には、毛の材質はナイロンで、毛の硬さは普通、ヘッド(植毛部)の大きさはやや小さめ(2.5cm前後)のものを選ぶと良い。ヘッドの形状は毛先が平らなものが良い。

近年は電動歯ブラシも広く使用されている。音波式、超音波式の電動歯ブラシは、毛先を歯面に当てなくても歯垢の除去効果があるとされている。口腔ケアの省力化を図る上では、電動歯ブラシの使用も効果的である。口腔ケア対象者の口腔内環境などに応じて使用を検討すると良い。上手に選択し、使用法を誤らなければ、口腔ケアの効率化につながることも多い。

 4)歯間清掃器具

歯間ブラシ,デンタルフロスなどを補助的清掃器具と呼ぶ。歯ブラシのみでは除去できない,歯間部のプラークや食渣を除去する目的で使用されている。プラークコントロールしにくい非自浄域の清掃効果が高く、口腔ケアの効率を向上させるのに効果的である。適切に使用するためには、歯科専門職の助言を受けることが望ましい。

歯間ブラシの選択で注意すべきは、ブラシ部の太さ(SS,S,M,Lなど)と把持部の形態である。個々の口腔環境に応じて選択すべきである。デンタルフロスも同様に,糸の形状(ワックス付き、ワックス無しなど)や把持部の形態が異なる多数の製品が販売されている。

5)義歯清掃用具(義歯ブラシ、義歯洗浄剤)

義歯はレジンと呼ばれる高分子化合物で出来ており、多孔性でプラークが付着しやすい物性を備えている。義歯の清掃においては、義歯を口腔外に取り出して清掃することが重要である。機械的な清掃にはブラシを使用する。義歯の清掃に特化した義歯ブラシが市販されており、こうした器具を使用することも効果的である。この際、歯磨剤は原則として使用しない。また、四肢の不自由な要介護高齢者では、義歯洗浄剤を併用し、化学的清掃を実施することもする事が望ましい。義歯床には日和見感染の原因となるカンジダが繁殖しやすいことが知られており、難治性の口角炎や粘膜炎の原因となっていることが多い。カンジダの除菌効果のある洗浄剤を使用し、義歯清掃を行うことは口腔カンジダ症などの予防の面からも望ましいと言える。

 6)歯磨剤

  歯磨剤の使用は口腔ケアにおいて必須ではない。市販の歯磨剤の多くには、発泡剤や研磨剤が添付されており、脆弱化した粘膜に刺激を与えるリスクがある。ただし、クロルヘキシジンなどの抗菌成分は、口腔ケアの主眼となるバイオフィルムの除去と再形成の阻止において、歯ブラシなどによる機械的清掃を補う化学的清掃として有効である。

7)開口器、口唇・口角排除器具

口腔ケアを困難とする要因の一つに、開口維持困難があげられる。開口保持器として、バイトブロックが市販されている。材質には様々なものがあるが,一般的にプラスチックや硬質ウレタン製のものが多い。持続的な開口状態が保てない症例に用いると効果的である。口腔ケア時の指の誤咬予防にも効果的を発揮する。

また、口腔ケアにおいて、口唇・口角の排除による広い術野の確保は、非常に重要な意味を持っている。口腔ケア実施部位の確認を容易にするだけでなく、器具の操作も的確に実施できるようになる。盲目的な操作を極力避けることは、口腔ケア器具による粘膜の損傷など、口腔ケアにおけるトラブル予防にも役立つ。 

8)保湿剤

  口腔ケア対象者は唾液分泌が低下し、口腔乾燥状態に陥っていることが多い。口腔乾燥状態の程度が口腔ケアの難易度も左右することもある。口腔ケアを開始する前には、保湿剤を適切に使用し、適度な湿潤状態を作り出さないと、粘膜を損傷し、予想外の出血や疼痛の原因となることもある。また、口腔ケア完了後に保湿剤を口腔内に使用することは、口腔乾燥の予防につながる。

  保湿剤の形状として、ジェル、液体、スプレーの3タイプがある。誤嚥リスクの高い口腔ケア対象者では、液体タイプの保湿剤の使用は控えるべきである。ジェルタイプの保湿剤は広く使用されているが、粘膜に均一に塗布することが難しい。味や匂いも製品によって大きく異なる。

  以上、口腔ケアに用いる器具について述べてきた。口腔ケア器具の多くはサンプル請求などが可能であり、まずは、色々と試しながら、選定を進めてみると良い。もちろん、歯科医師や歯科衛生士などと連携をとりながら、情報を得るのもよい。大切なのは、何を使うかではなく、正しく用いることである。

 

ここまでで、記したことをまとめておく。

口腔ケアを中心としたオーラルマネジメントが求められるのは、特に病院や介護施設などであり、これらの施設においては、まず、オーラルマネジメントを必要とする、歯科に関する高リスク対象事例のふるい分けを実施する。ふるい分けされた高リスク者に対しては、さらに詳細なアセスメントを実施し、問題点を明白にしておく。明らかになった問題点に対しては、必要に応じて歯科専門職による歯科訪問診療などを実施を依頼する。入れ歯の調整や動揺の強い歯牙の抜歯、う蝕や歯周病治療などを行う。こうした歯科治療は日々の口腔ケアでのトラブルを防止し、より口腔ケアしやすい口腔環境を整える上でも重要である。

は、口腔ケアを、普及型口腔ケア(看護師や介護者が行う)と専門的口腔ケア(歯科医師,歯科衛生士が行う)に分類する事を提唱している。普及型口腔ケアは、基本的な看護・介護技術である。病期を問わず、誰が実施しても、質的に安定した口腔ケアを提供する必要がある。普及型口腔ケアの規格化により、人的・金銭的・時間的に限られた資源の有効活用が期待できる。また、規格化された口腔ケアを提供していく過程で、普及型口腔ケアでは解決不可能な、専門的口腔ケア必要事例も顕在化する。こうした事例には、歯科専門職が介入し、専門的口腔ケアを実施する。このような仕組みが整えられ、オーラルマネジメント環境が整備されることで、口腔ケアの幅広いニーズにきめ細やかに対応する事が可能になる。

普及型口腔ケアの規格化においては、口腔ケア手順の文書化が重要である。手順書には、工程、担当者、手順などを記載する。このような手順書を作成する事で、口腔ケア使用器具や、実施時間などが統一される。結果として金銭的および人的コストと時間軽減、スタッフ教育の効率化がもたらされる。提供する口腔ケアの品質を維持するためにも有効である。普及型口腔ケアは概ね5分程度で終了する事を目標とする。

 

手順書を作成し、規格化された口腔ケアを実施する。手順書は必ず誰でも、いつでも閲覧可能な状態としておく。手順書の内容を周知徹底させるため、院内・施設内では研修の実施が望ましい。この場面で指導的な役割を果たすのは、口腔ケア(オーラルマネジメント)責任者である。

繰り返すが、普及型口腔ケアは、誰がいつ、どこで行ってもほぼ同じ手段で行われなければならない。それが規格化の意義である。普及型口腔ケアで解決しない問題が生じた時は、専門的口腔ケアに移行する。病院・施設における口腔ケアの熟練者が担当し、必要に応じて歯科専門職に協力を依頼する。

病棟や施設専属の歯科衛生士が全ての口腔ケアを行うケースを時々見かけるが、あらゆる意味で非効率的である。私は、こうしたケースが最初はそれなりの効果をもたらすものの、長続きせず、結局中途半端に終わる事例を多々見てきた。

口腔ケアの実施効果は定期的なモニタリングで判断する。前回までで、数値化された評価基準(OHATなど)を用いる重要性を訴えてきたのはそのためである。モニタリングを数値化して実施する事で、新しい問題点が見いだされる。その問題点に対して柔軟に対応し、規格化された口腔ケア手順で不足する部分があれば、臨機応変に改善する。また、適宜歯科医師や歯科衛生士にコンサルテーションし、問題点を解決する事も重要である。モニタリングの間隔は患者の状況に応じて判断する。日々行っている口腔ケアについてはしっかりと記録する事が重要である。また、定期的に再度詳細なアセスメントを実施し、ケアプランなどの見直しを図る事も重要である。

 

 

 

前項までで記してきたことをまとめておく

●口腔保健法の制定により、施設や病院には入居者、入院患者に対する口腔管理を実施するコンプライアンスが生じた事

●口腔管理(オーラルマネジメント)の実施にはリスクマネジメントの考え方が必要不可欠である事

●限られたマンパワー、金銭的資源を有効活用するために、病院や施設では、口腔のトラブルが生じやすいハイリスク者をまずふるい分ける必要がある事

●ハイリスク者のふるい分けにおいては、口腔ケアに関連した自立度から選別する事が比較的容易であり、BDR指標などが有用である事

ここからは、ふるい分けられたハイリスク者に対してアセスメントを実施し、歯と口腔のリスクを洗い出し、リスクの見積りを行う事となる。その見積もりに対して改善策となる口腔ケアプランを考案し、プランに基づき口腔ケアを実施し、定期的なモニタリングを行う事となる。定期的に再アセスメントを実施し、考案したケアプランの妥当性を確認し、必要があれば修正する。この繰り返しがオーラルマネジメントにおけるPDCAサイクルの構築となる。

オーラルマネジメントの流れについてまとめておく

アセスメントに用いる判断枠組にはは様々なものが存在する。全国国民健康保険診療施設協議会の作成した基準、EilerらによるOAGOral Assesment Guide1988)やOAGに改訂を加えたAnderssonROAGRevised Oral Assessment Guide2002)、Chalmersが考案したOHATが存在し、本邦でも看護分野などで広く利用されている。どのような判断枠組みを用いるかは施設、病院の実情によるが、近年はOHATの使用が増えているように感じる。ROAGと比べ、義歯や歯のトラブルを評価しやすい事がメリットと思われる。いずれにしても、地域包括ケアシステムの構築、多職種連携を考慮すると、オリジナルにこだわるのではなく、全国的に広く用いられている判断枠組みを用いる事が重要である。こうした判断枠組みが地域包括ケアシステムを構成する地域内で共通して用いられることは、情報伝達をスムーズにし、歯科口腔の問題管理を地域共通、職種の垣根が無い目線で行う事を可能にするための第一歩となる。既成のもの、全国的に幅広く用いられているものを採用すべきである。言語が統一されていなければ、コミュニケーションを図るのはより困難となるからである。