オバーン・カーン。
汚ジーン。
二つの種族に共通するもの。それは。
理解不能。
いつまでもトリッキーかつスリリングな行動をとり続ける二者。先日、私の前で恐ろしい出来事が。
そう、その二者の攻防を見た。
その火花散る戦いは、機動戦士ガンダムのシャア・アズナブルとマ・クベがテキサスで襲いかかった攻防を、遥かに凌駕したものであった。
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私は歩道を歩いていた。そして車道のゼブラゾーン(横断歩道)を渡ろうとしたが、残念ながらシグナルは赤。多少の狼狽を交えながら、足を止める。
その時、横をすり抜ける影が。
先行しすぎたザンジバルがごとき、その影は。そう、紛れもない。
汚ジーン。
下がグレーの伸びるタイプのスラックス、上は何とも言えないくすんだシャツという量産品だ。
ノロノロとした歩調で、右折車を手で制して渡るその勇姿。背中には冷たい視線が突き刺さるなど、彼だけが知らない鋼のハートの持ち主だ。
さて、私がぼんやりみていると。汚ジーン、ゼブラゾーンの向こうで、何やら手招きしている。口の動きで、何を言ってるのか理解した。
「早くこい!何やってんだ!」
その腐臭を放つような視線を辿ると、私から1、2メートル離れて立っている女性にたどり着いた。
(オバーンだ……)
伸びるタイプのスラックスをはき、鎖かたびらのように花ビラがまとわりついたシャツを着ている、これもまた量産品だ。
「は、や、く、早く!」
手招きをしている汚ジーン。あのな。
シグナルは赤だから。
こんな交通量が多い通りを渡ったら、そのまま三途の川を渡ることになる。あ。それが狙いなのか?そんなことない、目の前にいるのは頭がボンヤリした汚ジーンだ。
さすがにオバーン、かわいそうだな。そう思ったとき、隣のオバーンが呟いた。
「お前が来いよ」
!!!!!
ザッツ昭和ターイムのオバーンが、突然毒をはいた。
「行けるわけないだろ」
「お前が貯金おろしてこい、て言ったからだろ」
「何にもできないくせにねえ」
……![笑い泣き](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/015.png)
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恐ろしい。
なんの変哲もないオバーンが、隣で。
亭主をディスってる!
そんなことは露知らず、汚ジーンはゼブラゾーンの向こうで、ふうっと息を吐いて首をふっている。
「腹立つわねえ、轢かれちゃえばいいのに」
……![ガーン](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/020.png)
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怖い怖い怖い!
昭和のオバーンに背筋が凍ったとき。
シグナルは青に。
車は止まり、ゼブラゾーンを歩き始めた。オバーンと歩調を合わせてしまう。半分くらい渡ると、汚ジーンの声が聞こえてきた。
「まったく、グズなんだからなあ!」
……![笑い泣き](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/015.png)
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もうもうもう!
なんだか。
笑いが込み上げてくるんだが!
オバーンは穏やかな笑顔で言った。
「はいはいすいませんねえ」
![ガーン](https://stat100.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char3/020.png)
怖い。
女って怖い。
しかし汚ジーンは気がつかない。
「ったくよう、気を付けろよ!」
そう言ってお尻で手を組んで、オバーンを置いて歩き出す。そのあとを、無言でオバーンはついていった。
……私は残された。
寒い。この真夏日が襲い続ける日々の中で、凍えているのは私だけであろうか。
それとも。
信号待ちをしていた全員であろうか。