太宰治生誕100年ですからぁ!! | シネマド館

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世界の映画を見ていると世界を旅しているように感じる・・・というブログではなく単なる「映画」と「おでかけ・旅行」をメインにしたブログです。とは言いながらも結構他のことも書いてます・・。

男と女の関係は当人同士しかわからんね。



シネマド館-ヴィヨンの妻

ヴィヨンの妻



監督:根岸吉太郎

(2009年/日本/114分)


【ストーリー】

戦後の混乱期、酒飲みで多額の借金をし浮気を繰り返す小説家・大谷(浅野忠信)の妻・佐知(松たか子)は、夫が踏み倒した酒代を肩代わりするため飲み屋で働くことに。生き生きと働く佐知の明るさが評判となって店は繁盛し、やがて彼女に好意を寄せる男も現れ佐知の心は揺れる。そんな中、大谷は親しくしていたバーの女と姿を消してしまい……。(yahoo映画さんより)


【かんそう】

今話題の太宰治原作の物語。


全く見るつもりはなかったのですが・・・


結構いい評判聞いたのと、たまったま、夕方のニュースでこの映画が紹介されていて、監督さんの一言を聞いて、とても気合いの入った映画なんだなーと感じたことがきっかけで観に行ってみた。



この小説は読んだことないのだが、セリフの言い回しからして、まるで本を読んでいるような感覚だった。

多分原作とセリフは大きく変えてないのだろう。


また、私が読んだことのある太宰作品の一部がこの映画にちょいちょい盛り込まれていたなぁ。



浅野忠信演じる大谷は太宰自身かな?

常に「死」を考え、「死にたいのです」をしょっちゅう口にし、浮気を繰り返し、大酒を浴びるように呑み、借金をしまくるどころか、盗みまで働く・・・

自分は浮気を繰り返すくせに、妻・佐知の浮気を疑っては嫉妬する。


なんじゃこの男・・・。


以前、知り合いで、常に「死にたい」と言っていた男性がいた。

あまりにもそういうことばっかり言うので思わず


『じゃぁ、今すぐ死んだらええやん!そしてあんたのその健康な臓器を病気の人にあげてほしいわ!!ボケ!



と、言いそうになった。

ちょうどその頃友人が病気で入院していたからね・・・。


けど、 『そうやって死にたい死にたいって言っている人に限って長生きしたりするからあんたは死なんわ』というのが精一杯だった。

実際、この大谷も心中を図るのだが未遂で生き延びる・・・。


もー、私にしてみたら大谷なんて男「はぁ?はぁ?はぁぁぁあああ??」な存在なんだけど、妻・佐知は尽くして尽くして愛しつづけるのだ。



私にしてみたら「なし」な男・大谷だが、佐知にしてみたら愛すべき「あり」な人なんだなぁ・・・。


これだから男女の仲というものはわからん。

世の中ようできてるわ。


大谷も佐知がこんな女性だからこそ、自分を見捨てないと知っているからこそ、あんな好き勝手してたんだろか。

いや、大谷は誰と結婚してもあんなんかもしれん。


佐知も大谷の全てを受入れ、全てを許し、大きな愛で包み込むのだが、そんな健気な女性は他の男性にもどうやらまぶしく写るようで、佐知は自分が働く小料理屋に通ってくる若い客・岡田(妻夫木聡)という青年からも好意を寄せられ、昔佐知自身が好意を寄せていた男性、辻(堤真一)も今また佐知の目の前に現れ佐知を惑わすような事を言う・・・。


この岡田君がかわいくてねぇ。無垢な人が恋をするってこんなにもまっすぐなのね・・・というのを妻夫木君が好演してくれている。



そしてモテモテさっちゃんの佐知を演じる松たか子は、ぴったりの役どころである。

彼女はもともとの出身も正統派であるからか、やはりこういう正統な「妻」の役がぴったりはまりますな。

彼女に愛人役は似合わないよねぇ。


松たか子の演技がどう、とかはよくわからないのですが、はまり役なのは間違いない。


着物姿、丁寧な仕草、誰にでも明るく元気一杯の笑顔を見せる姿、夫の為にがんばる姿・・・・どれもこれも違和感はなかった。

言ってみれば古風な女性が良く似合ってた。



そして、太宰の愛人として登場するのが広末涼子である。

彼女の演技らしい演技は久しく見ていないのだが、私が『いい演技するねー』と思ったのは最後に佐知とすれ違うシーンだけである。


その他は・・・・まぁ、見てあげて。


何かと佐知の力になってくれる小料理屋夫婦の伊武雅刀、室井滋もいい味出してたので、俳優陣にハズレはなしかなぁ。(あ、広末は・・・ちょと・・・)



あと、美術関係もとても丁寧に作りこんであり、この辺を見ていても、監督の思い入れは相当強いんだなぁ・・というのがわかる。


最初の方にも書いたが、恐らく原作に近い形に仕上がっているだろうし、監督自身、太宰の世界を映像化させるのに何度も気絶しそうになった・・・というくらいに「世界観」にはこだわっていたようなので、この作品にメロメロになっている方も多いと思う。


ただ、私が太宰の作品をあまり読んでいないというせいもあってか、太宰ワールドというものがイマイチわかっていない。

なので映画自体はそーんなに感動することもなく、揺さぶられることもなく・・・

可もなく不可もなく・・・・という感じだった。


好きなシーンは何個かあるんだけどな。


特に好きだったのが


佐知と大谷が夜道を歩いて一緒に家に帰るシーン。


とても穏やかな空気が流れていてよかったなぁ。




で、話は変わるがラストの佐知のセリフにある『私たちは生きてさえいればいいのよ・・・』


これは原作と同じセリフらしいのだが、太宰はどんな気持ちで書いたのだろう。

妻がつぶやいているセリフなので、妻が夫を思う気持ち、妻自身の気丈さ、芯の強さ・・などが伺えるといえばそうなのだが、実際のところは太宰自身の気持ちであり、太宰自身への慰めだったのでは・・・と深読みなんかしちゃったりして。



しかし、これを書いた彼はこの数年後、今度は本当に入水自殺で死んでしまう。(これまた愛人とね)



生きてさえいれば・・・・




私自身ちょっとそんな風に思ってしまった・・。


原作は短編らしいのでちょっと読みたいかも!!!(長編は苦手なもんで・・・)




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